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  • 執筆者の写真高森明勅

安倍首相はトランプ大統領のクライアント?

更新日:2021年10月9日



『WiLL』3月号に京都大学名誉教授、中西輝政氏と評論家、江崎道朗氏の対談が載っている。

興味深い発言があるので一部を紹介する。

中西氏

「なぜ今、(平和条約締結前に必ず4島の帰属決定を優先させるという)この原則を放棄し、

(平和条約締結後に面積にして僅か7%の歯舞・色丹2島だけを引き渡すという)56年宣言まで逆戻りさせるのか、まったく理解できません。


今も2島返還だけで手を打とうとする経産省は一貫して資源外交しか眼中になく、他方、安倍(晋三)さんは『レガシーづくり』ですっかり前のめりになっている。


この両者とも『祖先から受け継いだ4島を取り戻す』という国益的発想を欠いています。…(首相の)残り任期が少ないから大幅譲歩せざるを得ない、と言うなら、初めから取り組まないほうがいいのです」

江崎氏

「アメリカの軍関係者は…『中国とロシアは対外的には敵対関係を演出しながら、裏でいくらでも手を結んでいる』と…ロシアと(日本が)平和条約を結べば、中露を引き離すことができる―これほど甘い考えはない」

中西氏

「トランプにとって、安倍さんは単なる『クライアント』でしょう。そもそも、トランプは日本の防衛について何も考えていない」

江崎氏

「商売人ですから、武器だけ買わせればいいと思っています。しかも、日本側はトランプのやり方に唯々諾々とのってしまう。日本は軍事的自立を目指して、アメリカにとって頼りになる同盟国になるべきではありませんか。トランプ政権の要求にこたえて高価な装備品を買うだけだと同盟関係を毀損することになると危惧する声が、米軍側からも聞こえてきます」

中西氏

「どうやら日本政府、特に官邸筋は、とりわけ経産省的発想が根強いように思います。日本の安全はトランプ次第、そして、そのトランプの歓心を買うためには、兵器をたくさん買えばいいと」

「韓国が増長する背景には、日本の力が非常に低下した事実がある。…平成30年を通じ日本の地位低下には劇的なものがあります。日本は悔しければ、もっと国力をつけてからにしろ、というわけです。確かにその通りです。それからもう1つ、文政権にとって北朝鮮が脅威でなくなったことも大きい」

江崎氏

「日韓関係が悪くなると、喜ぶのは中露です。見す見す中露を喜ばせるようなことを、日本はしてはいけない。…インテリジェンスの世界では、相手国の挑発に乗ったら負けという鉄則があります。文政権は意図的に日韓関係をおかしくさせている。その挑発的工作に乗ってしまい、日本が訳の分からない方向に行くことは決してプラスではありません」

「2015年、慰安婦問題について日韓で合意しましたが…慰安婦問題は、日韓協定で決着済みであり、もうそれ以上は何もしないと突っぱねればよかった。それで韓国側が文句を言ってきたら、国際社会に向けて日本の立場をアピールすればいい。韓国政府との間で『解決する』という愚かなことをするべきではなかったのです」

中西氏

「北方領土問題も同じです。…国際社会では前のめりになって、いついつまでに問題を解決したい、とする志向を強く持ったら、持ったほうが負けなのです。イギリスのEU離脱によって、再び英領ジブラルタルや北アイルランドの領土問題が浮上してきています。


ジブラルタルに関して言えば、スペインはこの三百年間、ひるむことなく『領土を返せ』とイギリスに言い続けています。…今もそれはスペイン国民の悲願ですが、共にEUにいる間は、確かにその問題は少し等閑(とうかん)視されていました。ところが、イギリスが『EU離脱』となったときから、また浮上してきて、離脱するならジブラルタルを返せと、今、スペインで猛烈な大テーマになっているのです。


…領土問題は普通、解決に至るまで何百年とかかるものです。…領土問題や歴史問題では解決を急ぐと必ず大きな譲歩をせまられる」

江崎氏

「日本人は問題を抱えると、過剰にストレスを感じてしまいがちです。そのストレスを何とか解消しようと、解決の方向に持っていきたがる。でも、ストレスに耐えるタフさがなければ、日本は生き残っていけません」

…「解消を急ぐと必ず大きな譲歩をせまられる」という指摘は、“負ければ解決”方式を続ける安倍首相には、さぞや耳が痛い指摘だろう。

ちなみに中西先生とは以前、『古事記が日本を強くする』(徳間書店)という対談本をご一緒に出させて戴いた。

又、江崎兄は長年の知友だ。


なお同誌巻頭の大阪大学名誉教授、加地伸行氏の一文の無知、愚劣ぶりが酷(ひど)すぎる。

画像:phol_66 / Shutterstock.com

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