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  • 執筆者の写真高森明勅

「大嘗宮」気になる変更

12月19日、宮内庁の第3回「大礼委員会」

(委員長は山本信一郎宮内庁長官)が開催された。

その場で、来年の大嘗祭で設営される

大嘗宮(きゅう)について取り上げられた。

この時に管理部から提出された資料

「今次の大嘗宮の設営方針について」を見ると、

少し気になる変更点があるようだ。

(1)最も中心的な建物である悠紀(ゆき)

殿・主基(すき)殿、更に廻立(かいりゅう)殿の

屋根材が、前例の「萱葺(かやぶき)」から

「板葺」に変更になる。

(2)使われる柱の一部を「皮付丸太

(かわつきまるた)」から「角材」へ。

これらについて簡単にコメントしておく。

皇位継承儀礼としての大嘗祭が、

毎年恒例の新嘗祭と顕著明白に異なる1つが、

大嘗宮の設営。

その大嘗宮の建物としての最大の特徴は、

原始さながらの素朴さ。

大嘗祭が成立したのは41代・持統天皇の

即位の際(拙著『天皇と民の大嘗祭』参照)。

当時既にシナ大陸風の高度な建築様式も

受け入れられていた。

にも拘らず、天皇の1代に1度の最も重要な

祭儀である大嘗祭の斎場となる大嘗宮は、

敢えて祭儀の度に新しく設営し、

終了後には取り壊す、簡素を極める建物とした

(貞観〔じょうがん〕『儀式』・ 『延喜式〔えんぎしき〕』参照)。

これは何故か。

恐らく即位の初めに当たり、

祭式を媒介として、時間軸としては

「原初の時」を再現し、空間軸としては

「自然との融和」を回復するという、

コスモロジカル(宇宙論的)な意図が

秘められていたのだろう。

古儀の大嘗宮について、

「構(かま)ふるに黒木(くろき)を以ちてし、

葺(ふ)くに青草(かや)を以ちてせよ」

(『儀式』『延喜式』とも同文)とあった。

「黒木」とは皮つきのままの材木。

まさに「皮付丸太」に他ならない。

屋根を「青草」で葺く、というのは勿論、

「萱葺」屋根を意味する。

大嘗祭を新嘗祭とは区別する最も重要な

指標の1つである大嘗宮。

その設営上の大きな特徴であった

「皮付丸太」と「萱葺」屋根を、

共に変更する(特に後者は全面的に)

というこの度の大礼委員会の方針は、

見逃せない問題を孕(はら)むのではあるまいか。

メディアは、一部建物の規模の縮小とか、

敷地面積の縮小などばかりを報じた。

問題の焦点はそんなところにはない。

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