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  • 執筆者の写真高森明勅

医療がそのすべての効力を失った後も…

先に皇后陛下の「読書論」の一端を紹介した。


また別に、私の胸に深く刻まれているのが、

皇后陛下の「看護論」。

平成8年11月16日の日本看護協会創立

50周年記念式でのお言葉だ。

日本看護協会というのは、

昭和21年に保健婦、助産婦、看護婦の

3団体が1つになって発足した組織。

しかし、このお言葉は、直接、看護職に

携わる人々だけでなく、幅広い国民がそれぞれの立場で、 自分の身に引き当てて拝読すべきお諭しではあるまいか。

些か長めの引用になるが。

「この50年、世界の医療技術は、著しい発展を遂げました。

人々の寿命は延び、健康に対する国民の関心も

多様化し、看護に対する要求は、今日、量、質共に

ますます大きなものになってきております。

出生、病(やまい)及び死に際し、また、 人生の節々の段階に訪れる身心の変化に際し、

人は何を経験し、どのような反応を示すのか、

ーー看護の仕事には、人間体験への深い洞察とともに、

人を不安や孤独に至らしめぬための、さまざまな心遣い

が求められているように思われます。

身心に痛みや傷を持つ人々、老齢により弱まった人々が、 自分が置かれている状態を受け入れ、それを乗り越え、

または苦痛とともに一生を生き切ろうとするとき、

医師の持つ優れた診断や医療技術とともに、

患者に寄り添い、患者の中に潜む生きようとする力を

引き出す看護者の力が、これまでどれだけ多くの人を

支え、助けてきたことでしょう。

看護の歴史は、こうした命への愛をはぐくみつつ、

1人1人の看護者が、苦しむ他者に寄り添うべく、

人知れず、自らの技術と、感性とを、磨き続けた

歴史であったのではないかと考えております。

時としては、医療がそのすべての効力を失った後も

患者とともにあり、患者の生きる日々の体験を、 意味あらしめる助けをする程の、重い使命を持つ仕事が

看護職であり、当事者の強い自覚が求められる一方、

社会における看護者の位置づけにも、それにふさわしい

配慮が払われることが、切に望まれます」

―取り分け、

「医療がそのすべての効力を失った後も…」

の一節は、その洞察の深さに思わず息を呑む。

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