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  • 執筆者の写真高森明勅

「政府関係者」の迷走


迷路

「政府関係者」の迷走

人々はどれだけ覚えているだろうか。

平成28年7月13日にNHKが上皇陛下が「ご譲位」を望んでおられるとのスクープを放った翌日、日本テレビがご譲位を可能にするには憲法改正(!)が必要とする「政府関係者」(恐らく杉田和博内閣官房副長官だろう)の見解を報じた事実を。


これは余りにもお粗末だった。改めて言う迄もなく、憲法は皇位が「世襲」である事のみを定め、継承の具体的な在り方は「国会の議決した皇室典範」の規定に全面的に委ねている(2条)。従って、“皇位世襲”の大原則を変更するのでない限り、憲法改正は無用。ご譲位を可能にするのは、皇位継承の“在り方”について、従来は「終身在位」のみだったのを変更するに過ぎない。


だから勿論、皇室典範の改正だけで十分に対応できる。又逆に、典範を改正しなければ対応できない。私は7月15日、BS日テレの「深層ニュース」に出演した。その時に、上記の説明をして「憲法改正なんて必要ありません。今は首相官邸が混乱しているのでしょう。いずれ必ず訂正されますよ」と断言して、その通りになった。


皇室典範特例法に典範との一体性を確保する条文(附則3条)がわざわざ挿入されたのも、憲法が典範を“名指し”して委任しているからだ。その間、憲法改正が必要と言っていた舌の根も乾かないうちに、「政令」だけで対応できる、などと言い出した場面もあった。政令は政府(内閣)の命令。閣議決定だけで制定でき、法律の下位(!)に位置付けられる。


法律の規定を前提に、それを実施する為のもの。

ならば、法律である典範に“終身在位”(4条)しか規定していない以上、政令一本でそれを覆せるはずがない。もしそんな事が可能になるなら、法律を作る意味が無くなり、国会は全く形骸化して、政府は万能になる。天皇陛下すら閣議決定(つまり首相の一存)だけで“クビ”にできる、という恐ろしい発想だ。


「政府関係者」のこんな迷走ぶりを改めて思い出したのは理由がある。先日(7月27日)の読売新聞のトップ記事を読んで、その迷走ぶりが相変わらず“健在”なのに、眉を顰(ひそ)めざるを得なかったからだ。

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