「皇室会議」の国家機関としての重い意義とその限界
- 高森明勅
- 13 分前
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皇室制度の改正を巡る全体会議により「立法府の総意」を形作る為に、立憲民主党の野田佳彦代表が、これまで意見が対立して一致点を見出し難かった内親王·女王の配偶者とお子さまの身分をどうするかについて、婚姻時に皇室会議で決める、というプランを提案した。
これは妙案だ。
しかし、これまで「皇室会議」について、その名前は知っていても詳しい仕組みは分からない、
という国民が意外と多いのではあるまいか。
拙著『愛子さま 女性天皇への道』(講談社ビーシー/講談社)214〜215ページにごく簡単な解説を書いたが、ここでは野田提案との関連で最低限、知っておくべき基本事項について、補足しておく。
先ず、皇室会議が国家機関として卓越した権威を帯びている点を見落としてはならない。
何しろ、皇族及び立法·行政·司法の三権の代表者が一堂に会する、“唯一”の機関だ(議員の構成は、立法府だけ衆参両院·正副議長の4人、他はそれぞれ2人で、合計10人)。
皇室会議の責務の重さは、国家にとって極めて重大な意味を持つ皇位継承順序の変更が、
同会議の議決のみによって可能になる事実(皇室典範第3条)から明らかだろう。
又、天皇の国事行為の全面的な代行に当たる摂政の設置、就任順序の変更、廃止も全て、皇室会議だけの権限による(皇室典範第16条第2項·18条·第20条)とされている。
以上から、皇室会議の国家機関としての重い意義が理解できるはずだ。
議決の方法については以下の通り。
最も公共性が高い①皇位継承順序の変更、②摂政の設置、③摂政就任順序の変更、④摂政の廃止については、議員の3分の2以上、ある程度、私的な側面も含む⑤天皇及び男性皇族の婚姻(皇室典範第10条)、⑥皇族の身分からの離脱(第11条·第13条·第14条)については過半数での議決とされる(第35条第1項)。
可否同数の場合は議長(=首相)が決する(同第2項)。
過去の実例は(皇室典範特例法によるケースを除き)⑤のみであり、実態としては全て全員一致で議決されて来ただろう(内親王·女王はこれまで、婚姻により一律に身分を離れるルールであり❲第12条❳、皇室会議の関与はなかった)。
なお、⑤だけは「皇室会議の議を経ることを要する」とされ、他は全て「皇室会議の議により」とされている。この扱いの違いは何か。
「皇室会議が発議権及び決定権を持つ場合『議により』とし、他に成立してゐる行為について皇室会議が承認乃至(ないし)同意を与へその他これに関与する場合を『議を経る』とした」(法制局❲内閣法制局の前身❳「皇室典範案に関する想定問答」)という。
こうした皇室会議の重大さから、皇室を巡る様々な案件についても、広くこの会議での検討を期待する声が、一部にある。しかし皇室会議は、専ら皇室典範及びその他の法律に根拠を持つ事柄についてだけ、“限定的に”権限を有する(皇室典範第37条)。
従って、新しく皇室会議の権限を拡大しようとする場合、別に立法が必要になる。
例えば皇室制度の改正を巡り、有識者会議や全体会議が果たすような役割を丸ごと皇室会議に求めるなら、その為に“一から”新しい法律を作らなければならない。
しかし、その法案作りは恐らく一筋縄では行かず、かえって回り道となり、問題の解決を遅らせ、混乱を拡大する可能性が高いだろう。
又、皇室会議そのものの性格に照らして、有識者会議や全体会議のような(入り組んだ議論を整理、調整するような)役割を押し付けることが賢明とは、思えない。
更に会議には、皇族からお2方の議員が加わっておられる(現在は、秋篠宮殿下と常陸宮妃·華子殿下が議員で、秋篠宮妃·紀子殿下と高円宮妃·久子殿下が予備議員)。
その為に、国政に関わる事項は議題から除外される。
そのような皇室会議の性格、限界を見極めた上で、活用方法を考える必要がある。
これまで、男性皇族が婚姻される場合、前述の通り、必ず皇室会議の議決を必要とした。
ならば今後、内親王·女王が婚姻後も引き続き皇族の身分を保持されるのであれば、その婚姻に皇室会議の議決が求められる制度改正があっても、特におかしくない。
その際の皇室会議において、婚姻への同意に併せて、配偶者とお子さまの身分についても決めるというルールが、この度、立憲民主党から新しく提案されたことになる。
これは、先ほど述べた皇室会議の役割を十分に理解した提案として、評価できる。
現在の政治状況とこれまでの経緯に照らして、真剣に「立法府の総意」を模索するなら、
他に選択肢は殆ど無いのではあるまいか。
自民党にたとえ僅かでも、当たり前の判断力が残っていることを願う。
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