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  • 執筆者の写真高森明勅

御製より

平成30年の年頭に当たり、 天皇陛下が昨年中にお詠みになった 御製(ぎょせい)5首が発表になった。


その1首。


戦(いくさ)の日々 人らはいかに 過ごせしか 思ひつつ訪(と)ふ ベトナムの国 昨年、天皇陛下が ベトナムをご訪問になった事を詠まれている。 その時のエピソードについては、 私が手掛けた『天皇陛下からわたしたちへのおことば』

(双葉社)で以下のように触れた。


「(昨年)2月28日から3月6日にかけて、 天皇陛下はベトナムとタイにお出かけになられた。

ベトナムは長年オランダの植民地としてその支配下にあり、 先の大戦では日本軍が駐留した。


戦後、その一部の約600人の元日本兵が残留して、 ベトナムの独立を支援した。 中には現地で家族を持った者もいた。

しかし、ベトナムは南北に分断され、 元日本兵は本国に呼び戻され、 現地の家族とは離別した。


いわば、戦争によって家族をもち、 戦争によって家族と引き離された人たちなのだ。

陛下はベトナムを訪れた際に、その家族たちと面会されている。 …日本人のほとんどが知ることさえない、 そのような人たちにも陛下はこまやかにお心を寄せておられる。 その中のひとりに、 ゴー・ザ・カインという男性がいる。

彼も残留日本兵を父に持つベトナム人だ。

…東日本大地震が起こった際に、 父の祖国である日本が大変な状況にあることを知って、 ベトナムで募金活動をしてくれた。


天皇陛下はそのことに 『日本人はとても勇気づけられたと思います』 と感謝の気持ちを伝えられた。

それに彼は『日本人としての気持ちを持ち続けています』 と答えている。 皇后陛下は、お優しく 『日本のために祈ってくださったのですね』 とおことばをかけられた。

それを聞いたゴー・ザ・カインさんは、 よほど感激したのだろう。 皇后陛下のお手に額をつけて号泣したという」


皇后陛下の御歌(みうた) 3首の中にも、次の1首がある。 「父の国」と 日本(にっぽん)を語る 人ら住む 遠きベトナムを 訪(おとな)ひ来たり 2首を並べて拝すると、 感慨のうたた切なるものがある。

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