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上皇陛下のご譲位を可能にした特例法制定経過から見えたもの

  • 執筆者の写真: 高森明勅
    高森明勅
  • 7月27日
  • 読了時間: 4分
上皇陛下のご譲位を可能にした特例法制定経過から見えたもの

上皇陛下のご譲位を可能にした皇室典範特例法の制定については、微力ながら私も些か関わりを持った。

今やその経緯も現代史の一コマとして、そろそろ歴史上の出来事になりつつあるようだ。


その経過を巡り、近刊書の中で言及された一部を紹介しておこう。

先ず、歴史学者で名古屋大学大学院准教授の河西秀哉氏『皇室とメディアー『権威』と『消費』の150年史』(令和6年12月刊、新潮選書)から。

「(平成28年の)NHKの第1報から『おことば』表明までの間、そしてその後も多くの論者の意見が発表された。

憲法学者の百地章日本大学教授は、天皇の意向はそれとして聞いておくが、公務負担軽減策として摂政を置くことで問題は解決できると主張している。

『生前退位』には懐疑的な立場であった。 八木秀次は…やはり『生前退位』には否定的…。

それは、『生前退位』となると皇室典範改正に繋がる可能性があり、女性天皇や女性宮家などの議論が再燃することを恐れていたからではないだろうか」


「一方で神道学者の高森明勅は、天皇の『おことば』表明が『近代以降、皇室の歴史において

排除されていた“譲位”というもう1つの皇位継承の在り方が、再び新しい時代にふさわしい形で復活する、比類なく重大な転換点となるだろう』と強調する。高森は、天皇の『生前退位』の意向をくみ取り、政府や国会は協力して皇室典範を改正してそれを果たすべきだと主張した。

それが『国民の責務』とまで述べている。


高森は摂政は天皇の意思に反すること、特別立法も天皇の『権威』を損なうと主張し、

あくまで皇室典範改正が望ましいと提起した。このように天皇の意向を尊重する立場は、

他に漫画家の小林よしのりらがおり、彼らは皇室典範の改正も辞さない考え方である」


「政府は、最初から明仁天皇1代限りの『生前退位』を認める特例法という結論を

有識者会議で決めようとし、皇室典範改正には消極的であった。…安倍晋三政権を支える保守層が、特に女性·女系天皇問題に拒否感を示しており、そのような問題に波及しかねない皇室典範の改正は避けたかったからだと思われる」


次に、ジャーナリスト(元日本経済新聞·編集委員で新聞協会賞を受賞)の井上亮氏『宮内庁長官ー象徴天皇の盾として』(令和7年5月刊、講談社現代新書)から。


「このころ山本(信一郎·宮内庁長官)は『両陛下は新聞、テレビをよくご覧になっているので、

有識者会議の結果には落胆されているところもあると思う。有識者会議のヒアリングで“天皇はお祭り(祭祀)だけしておけばよい”といった意見が出たのは残念。


あんな意見が両陛下の耳に入っているということを考えるだけでつらい』と漏らしていた」

同じく井上氏の『比翼の象徴ー明仁·美智子伝』下巻❲平成の革命❳(令和6年11月刊、岩波書店)には、次のような記述も。「(平成27年10月)宮内庁はこの年の秋までに明仁天皇が退位の意思を示していることを首相官邸に伝えていた。宮内庁側は風岡典之長官、官邸側は杉田和博官房副長官が窓口になった。


官邸の返答は『天皇の即位と退位の自由は憲法上認められない』というもの」「(平成28年8月8日に退位へのご希望を滲ませたビデオメッセージがあり)国民の圧倒的多数は天皇の退位の意思を支持した。官邸が検討していた摂政設置は吹き飛んだ」「(平成29年3月)13日、(衆参両院)正副議長は各党代表者と個別に会談し、『退位特例法は皇室典範と一体をなす』と明記すること、

今回の退位が将来の先例となることなどで民進党の合意を取り付けた。特例法成立を

急ぎたい自民党が譲歩した結果だった」


「5月21日、毎日新聞朝刊が有識者会議ヒアリングで保守派が平成の象徴のあり方に否定的な意見を述べたことに天皇がショックを受けたことと、退位の恒久制度化を望んでいることを報じた」

「(国会での特例法の可決により)江戸時代の光格天皇以来約ニ百年ぶり、近代以降初の天皇退位が実現することになった。


1年前まで、ほとんどの国民が夢想もしなかったことだった。明仁天皇の全身全霊の活動の積み重ねとそれに共感する国民の支持がなければなしえなかった、現代天皇制における『革命』といっても過言ではない」


このように振り返ると、誰が皇室を真に敬愛する忠良なる国民で、誰が皇室のお気持ちに背く不忠者であったかは、もはや誤解の余地なく明らかだろう。

又それは、現在における皇位継承問題を巡る言動の正否を判断する場合にも、最良の手がかりになるはずだ。


▼追記

プレジデントオンライン「高森明勅の皇室ウォッチ」が7月25日に公開された。

今月は、構造的な欠陥を抱える今の皇室典範の規定に基づく皇位継承順序をそのまま固定化することの問題点を、取り上げた。


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