top of page

皇室のお考えを尊重するか、それに背くかーという対立

  • 執筆者の写真: 高森明勅
    高森明勅
  • 3 分前
  • 読了時間: 6分

皇室のお考えを尊重するか、それに背くかーという対立


皇位継承問題を巡る対立の焦点は、はっきりしている。

皇室ご自身のお考えを尊重するのか、それとも背こうとするのか、その対立だ。


皇位継承資格の「男系男子」限定に固執する人々は、皇室のご意思を謙虚に拝察し、それに忠実に従うという発想が、そもそも無い。


それは丁度、上皇陛下がご譲位を願われるビデオメッセージを発表された後であっても、自ら「保守」だの「愛国」だのと名乗りながら、全力でそれを妨害しようとしたのと同じだ。


では、皇室のご意思とはどのようなものか。勿論、憲法の制約があるので、ストレートな形で

示されることはあり得ない。しかし、懸命に国民に対してメッセージを伝えようとされているし、周囲からの発信もある。それを見逃してはならない。


①宮内庁の西村泰彦長官が5月22日、皇族数確保を巡る与野党協議ついて「皇族数の減少は大変大きな課題」「(皇族が)減っていくということは(国民にとって)大変不幸なこと」などと発言した(朝日新聞デジタル5月22日公開)。


このようなテーマについて、宮内庁長官が独断で発言することは、あり得ない。

その背後に必ず天皇陛下のお考えがあると受け止めなければならない。


しかも、これは直接には内親王·女王が婚姻後も皇室にとどまられるプランを念頭に置いた発言だ。なので、当事者でいらしゃる敬宮殿下ご自身のご意思を無視することは、100%想定できない。よって、この西村長官の発言からは、天皇陛下が同プランの制度化を望まれ、更にその前提として敬宮殿下には婚姻後も皇室にとどまられるご意思がおありだと、拝察できる。


その場合、普通に考えて、近代以降これまで全く前例が無い、配偶者やお子さまが国民=家族でも身分が異なる、という制度を希望されているとは想像しにくい。

更に社会通念上、“家族は一体”と見られるのを避けにくい以上、内親王·女王が皇族として憲法上要請される役割と、その家族が憲法によって保障される国民としての権利や自由とが調和し難い

ことも勿論、当事者ならば理解されているはずだ。


②平成時代に宮内庁次長→長官→参与と12年間にわたり上皇上皇后両陛下のお側に仕え、天皇陛下と秋篠宮殿下も加えた“三者会談”にも陪席した羽毛田信吾·元宮内庁長官は、皇位継承問題に対する皇室のお考えを最もつぶさに知り得る立場にある。その羽毛田氏の発言を、読売新聞が伝えている(読売新聞オンライン5月19日公開)。


「江戸時代までの天皇の半数近くは側室との間の『非嫡出』だった…現在の皇室典範は側室を否定し、皇后との間の『嫡出』に限定した。少子化の流れを直視すれば、構造的な欠陥を認めざるを得ない…二分される論点も民意に沿って集約されるのが自然だ」


これまでの各種の世論調査の結果を見ると、およそ7割〜9割の国民が女性女性を認めている。

最新の毎日新聞の世論調査でも、反対は僅か6%にとどまった。

羽毛田氏が伝えたいことは明らかだ。

しかも、それは羽毛田氏個人の意見ではなく、上記の経緯に照らして皇室の中枢をなす天皇陛下、上皇陛下、秋篠宮殿下の合意が那辺に存するかを示すものと見るべきだ。


③読売新聞調査研究本部客員研究員(元論説主幹)の小田尚氏が、上皇陛下の側近に10年半にわたってお仕えした渡邉允·元侍従長が平成31年1月9日に語った内容を公表している(プレジデントオンライン5月23日公開)。これも当然ながら、上皇陛下のお考えと乖離した発言とは考えられない。


「男系(限定)の継承を主張するのは、皇室を途絶えさせることになる。女系を認めるべきだ」

余りにもど真ん中の正論で驚くほどだ。


以上①〜③は側近奉仕者による発言だ。次に、これまでも繰り返し取り上げているが、上皇陛下ご自身のご発言を紹介する。


④平成17年のお誕生日に際しての記者会見で、小泉純一郎内閣に設置された「皇室典範に関する有識者会議」の報告書が安定的な皇位継承の為には女性天皇·女系天皇を認める以外にないーという趣旨の結論を示したことに対して、記者から「実現すれば皇室の伝統の一大転換となります」

という問いかけがあった。


これに対して、上皇陛下は真正面から否定されている。「私の皇室に対する考え方は、天皇及び皇族は、国民と苦楽を共にすることに努め、国民の幸せを願いつつ務めを果たしていくことが、皇室の在り方として望ましいということであり、またこの在り方が皇室の伝統ではないかと考えているということです」


この在り方、この精神が受け継がれるならば、女性天皇·女系天皇が登場しても「皇室の伝統」は守られる。逆に言えば、男系·女系に関わりなく、もしそれが受け継がれなければ、皇室の伝統はそこで途絶える。そういうお考えを示されたと理解できる。


⑤ちなみに、敬宮殿下はご成年を迎えられた際の記者会見で、この上皇陛下のご発言を受け止めて次のように明言しておられた。


「皇室は、国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にしながら務めを果たす、ということが基本であり、最も大切にすべき精神であると、私は認識しております」と。


今後、皇室典範が抱える“構造的な欠陥”が解消されたら、直ちに次の天皇として即位される道が拓ける敬宮殿下ご自身が、自分は真の意味での「皇室の伝統」を受け継ぐという決意を、ここで明確に示された事実は重い。


⑥天皇陛下は5月27日、アイスランドのトーマスドッティル大統領にお会いになり、同国が世界で最も男女格差の少ない国と評価されている事実を踏まえて、「何故ジェンダー平等が実現しているのですか」と話題にされたという(毎日新聞デジタル5月27日公開)。

このやり取りが宮内庁によって、このタイミングで発表されたこと自体、メッセージ性をはらむ。


これによって、少なくとも天皇陛下が「ジェンダー平等」を大切な価値と考えておられることは、疑問の余地がない。ならば、天皇皇后両陛下にお子さまがおられても、ただ「女性だから」というだけの理由で皇位継承のラインから除外される“男尊女卑”のルールをどう見ておられるかは、自ずと明らかだろう。


その欠陥ルールによって、皇位継承の行方は暗雲に閉ざされている。

しかも皇后陛下が長年、適応障害に苦しめられておられるそもそもの原因も、他ならぬそのルールだ。


陛下がその事実に無頓着であられるはずがない。上記の諸点とも全て整合的だ。

このように見ると、先頃の「読売提言」はその方向性において、まさに皇室のご意思と合致していることが分かる。だから、読売提言の巨大なインパクトに焦り、反発して、狂乱状態を呈している一部の孤立したメディアや人物は、皇室のご意思に背こうとしていると言える。


彼らが読売提言に投げかける悪罵は、畏れ多くもそのまま皇室に対するものだと、自覚していないのだろうか。


bottom of page