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「皇統」と「男系」を正しく切り分けた読売新聞の提言を歓迎

  • 執筆者の写真: 高森明勅
    高森明勅
  • 3 分前
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「皇統」と「男系」を正しく切り分けた読売新聞の提言を歓迎

◎読売新聞社が重大提言

5月15日、国内で最大の発行部数を誇る読売新聞社が皇位継承問題について、女性天皇·女系天皇にも踏み込んだ重大かつ建設的な提言を行った。既に政界をはじめ国内に幅広い影響を及ぼしている。当日の紙面では、この提言を一面トップで大きく扱った。

見出しは「皇統の安定 現実策を」「読売新聞社提言」「皇族減 典範改正が急務」。

更に「責任を持って結論を」というタイトルの竹原興·社会部長による署名論説。

3面には「皇統の存続最優先に考えたい ー女性·女系も排除すべきでない」という社説。14面に「安定的な皇位継承に向けた提言」の中身を掲載し、その向かいの15面には「皇室の今と歴史的経緯」という解説記事を載せている。

見開き記事で、最上段には「天皇の系譜 危機的/ 国民の象徴像 守る」と横書き。迫力がある。これは是非とも紙で読んで欲しい。熱意の伝わり方が違うはずだ。

◎提言の4つの柱

提言の柱は以下の通り(仮にナンバーを付す)。 ①「皇統の存続を最優先に ー安定的な皇位継承を先送りするな」②「象徴天皇制 維持すべき ー国民の支持に沿った方策を」③「女性宮家の創設を ー皇室支える皇族数が必要」④「夫·子も皇族に ー与野党は合意形成に努めよ」

◎真剣な危機感

今回の読売新聞社の提言で先ず共鳴できるのは、前提となる真剣な危機感だ。

「国会では、皇位継承のあり方に関する与野党の協議が進んでいる。国家と国民統合の象徴をめぐる危機に際し、今こそ責任を持って結論を出さなければならない」(竹原社会部長)

「皇族数の減少は深刻で、このままでは皇室制度そのものが行き詰まる恐れがある。何よりも重視すべきは、皇統の存続だ。そのための現実的な対策を講じなければならない」(社説)

◎皇室に寄り添う姿勢

次に、皇室の方々のお気持ちにできるだけ寄り添おうとしている姿勢に、敬意を表したい。

「悠仁さまは昨年9月に成年になられた。いずれ結婚されると考えると、将来のお妃候補に男児出産の期待が過度にかかる状況は、結婚自体の妨げにもなる。天皇陛下と結婚された皇后さまが、こうしたプレッシャーを受ける立場に置かれ、体調を崩されたことを忘れてはならない」(①をめぐる提言から)

「夫婦ともに皇族であることは、公務の面でも重要だ。天皇陛下は即位後初の記者会見で、皇后さまについて『常に私の傍らに寄り添い、相談に乗り、公務に共に取り組みながら支えてくれている』と語られた」(④をめぐる提言から)

◎健全な常識的感覚

更に健全な常識的感覚に立脚していることも評価できる。「旧宮家の男系男子を皇室に迎える案については、これまで一般人として生活してきた人が皇族になることへの国民の理解が得られるかどうかなど、不安視する声も少なくない」

「象徴天皇制は戦後、国民に定着し、太平洋戦争(大東亜戦争)の戦地を訪れて慰霊したり、災害現場で被災者に寄り添ったりする皇室の活動は深く敬愛されている。皇室典範は、天皇の地位は『男系の男子である皇族』が継承すると定めているが、男系男子にこだわった結果、皇室を危うくさせてはならない」(一面記事)

「自民党内では、皇室に迎え入れた旧宮家の男系男子を、女性皇族の結婚相手としてはどうか、といった意見も出ている。しかし、女性皇族の意思を尊重せず、結婚相手をあらかじめ制度的に限定するようなことになれば、人権上の問題が生じよう」(社説)

「戦後に皇籍離脱した旧宮家の男系男子を養子として皇室に迎える案がある。戦後80年近くかけて象徴天皇と国民が紡いで来た絆をその間、民間で生きてきた人たちが継承することができるのか。疑問だ」(②をめぐる提言から)

「(内親王·女王の)配偶者などを皇族でなく、一般国民とした場合、自由な意見表明や政治、宗教活動が可能になる。その結果、皇室が政治利用されたり、皇室の品位が損なわれたりする懸念が生じかねない」(社説)

「皇統存続の方策を議論するうえで欠かせないのが、多くの国民に支持されている『象徴天皇制』を守っていくという姿勢だ。…現代の天皇制は国民の総意の上に成り立っている。国民の思い描く象徴像を大切にしながら、維持していく方策でなければならない」(②をめぐる提言から)

◎歴史事実の確認

見逃されがちな、議論の前提となる歴史事実の確認も、怠っていない(以下、解説記事から)。

「皇位継承者が『男系男子』と限定され、明文化されたのは、1889年に制定された大日本帝国憲法と明治の皇室典範からだ」(※帝国憲法第2条に「皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニヨリ皇男子孫之(これ)ヲ継承ス」とある。念の為)

「一方、明治の皇室典範は皇統の安定化策として、男性皇族と側室の間に生まれた『非嫡出』を皇位継承権者として認めた」

「(現在の)皇室典範の立案過程では、国民の意識の変化に合わせ、戦前は容認されていた側室との間の『非嫡出』の継承が禁じられた」

「(今の典範の)審議では、女性の皇位継承について『将来の問題として、十分な研究をして、正しい結論が出ればそれに従う』という考え方も示された」

◎女系天皇の検討を提言

それらの上に立って、当たり前の方向性が、しかし明確に示された事実が持つ意味は大きい。

「皇統を安定的に存続させるため、女性天皇に加え、将来的には女系天皇の可能性も排除することなく、現実的な方策を検討すべきではないか」(一面記事)

「歴史上、女性天皇は8人存在した。また、憲法は皇位について『世襲』と定めているだけで、政府も女性·女系天皇を『憲法上は可能』と解釈している」(社説)

「主張が割れる『男系か女系か』の前に『世襲をいかに維持していくか』を優先し、それを実現するための最良の知恵を与野党の協議で示してほしい」(①をめぐる提言から)

◎「皇統」と「男系」の区別

今回の読売新聞の記事で最も注目すべきは、皇位継承問題で何よりも大切な「皇統」と「男系」を、明確に別の概念として正しく切り分けたことだ。皇統は、男系·女系をどちらも包含する、より“上位”の概念であり、最後に守るべきは皇統であって(「世襲」とは“皇統による継承”を意味する)、男系なんぞでは決してない。

そこを見誤らなかったことが、(枝葉の部分はともあれ)読売新聞社の今回の提言を評価できる最大のポイントだ。


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