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執筆者の写真高森明勅

「なぜ性別はあるのか?」その生物学的な回答が興味深い


「なぜ性別はあるのか?」その生物学的な回答が興味深い

『文藝春秋』3月号に、進化生物学者で総合研究大学院大学の学長だった長谷川眞理子氏の

興味深い記事が載っている。


同氏はそこで、「なぜ性別があるのか?」オス·メスの性別が生まれた理由を明快に述べておられる。


「そもそもなぜ『性』はあるのか。多くの人は、『繁殖のため』と思われるでしょう。しかし『性』を介在させずに『繁殖』する生物も数多くいます(無性生殖)」


「有性生殖から『繁殖』という要素を差し引くと、オスとメスの『遺伝物質の交換』という要素が残ります。無性生殖の子供は、親のコピーです。それに対して、有性生殖の子供は、親とは少しずつ違ったところを持っています。『性』の本質はこの『遺伝子の組み換え』にあると考えられています」


「なぜ『遺伝子の組み換え』を行なうのか。『子供に多様性をもたせる』ことで、環境や変化、とくにウイルスや細菌などの寄生者に対する防御機能を高めるためです」


オスとメスの有性生殖により、「遺伝子の組み換え」を通じて多様な個体を生み出すことが可能になり、その「多様性」によって環境の変化を乗り越えて生き延びることができる生き物が、地球上に多く残った。


その為に、生物の多くにオス·メスの性別が確認できる。これは納得しやすい説明だろう。なお有性生殖の場合、配偶子は①受精しやすいことに特化した→小さくてよく動く「精子」と②生き残りやすいことに特化した→大きくて動かない「卵子」の“2つ”しかない。その為に、配偶子レベルでは性は原理的に2つしかあり得ない。


その一方で、「個体」全体のレベルではオス·メスの区別に「曖昧さ」や「連続性」「中間系」などが生じ得る。ヒトの場合も含めて、そのプロセスやメカニズムなども同記事では説明してあり、私は面白く読んだ。


それにしても、オス·メス双方の親から遺伝子を受け取り、それを混ぜ合わせて親の単なるコピーではない多様性を持つ子供を生み出す為に「性別」が現れたというのは、男系と共に女系にも意味を認める双系的な血統観の生物学的な基礎と言える事実ではあるまいか。

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