皇室典範第9条(天皇・皇族の養子の禁止)に以下のようにある。
「天皇及び皇族は、養子をすることができない」
これは明治典範の規定(第42条)を踏襲した条文だ。但しそちらには、「天皇」は(文意に含まれていても)名指しされていなかった。現行典範で「天皇」の語を追加したのは、法制局「皇室典範案に関する想定問答」によれば、「その禁が天皇に及ばぬことを虞(おそ)れたから」。
では、明治典範で「養子縁組」を禁止したのは何故か。伊藤博文名義の『皇室典範義解』に「宗系紊乱の門を塞ぐなり」とある。自然血縁(実系)と法定血縁(養系)が入り雑じって、血統が混乱するのを避けるのが目的だった。
このようなルールを敢えて覆して、新しい制度を作るのであれば、それを提案する側に、その妥当性と実現可能性を証明する責任がある。特に、憲法違反の疑いがある制度など、認められるはずがない。
これまで「門地差別禁止」(憲法第14条)について、唯一の例外とされて来た「天皇・皇族」“以外”の国民の中からでも、例外扱いが許されるという判例・政府見解・学説が存在しているのか、どうか。あるいは、それらが存在しなくても憲法違反にはならないという論証ができるのか、どうか。
一方、門地差別禁止に関わって、近頃、何故か皇族との婚姻による皇籍取得を問題視する発言を見かける。率直に言って、いささか思考回路を疑いたくなる。婚姻によって何故、皇籍を取得できるのか。皇室典範に明文の根拠があるからだ。
第15条(婚姻による皇族の身分の取得)だ。
「皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない」「女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合」に“限り”「皇族となる」という規定だ(養子縁組による皇籍取得はこの条文にも抵触する)。
改めて言うまでもなく、この規定に基づいて実際に多くの国民女性が皇籍を取得してこられている。
私は寡聞にして、この条文やそうした実例が憲法違反だという指摘を、これまで耳したことがない。もしそのような判例・政府見解・学説があれば、どうか示して欲しい。それが示せないなら、独自に説得力のある根拠を示して欲しい。
当たり前ながら、これまで禁止されていたことを解除する、新しいルールや制度を提案するなら、提案する側(!)が、それが憲法違反でないことをはじめ、妥当性と実現可能性を証明する責任がある。
逆に既にあり、何ら支障なく運用されて来たルールや制度を問題視するなら、それが憲法違反であるとか、様々な問題点があることを、問題視する側(!)が、説得力のある形で示す責任がある。
旧宮家養子縁組プランは憲法違反である、という指摘に対して、婚姻による皇籍取得は問題視されていない(だから憲法違反ではない)、と“明後日の方角”に向かって言い返しても、何の反論にもならない。
皇室典範で禁止されている養子縁組を旧宮家という「門地」にだけ限定して特権的に認めるプランと、皇室典範に規定され、これまで多くの実例を積み重ねている、対象を門地によって限定“しない”婚姻による皇籍取得という、全く異なる両者を同一視しても、何の意味もない。その思考回路の余りのユニークさが、人々を驚かせるくらいだろう。
なお現行典範第15条の立法理由について、前出「想定問答」には以下の説明がある。
「臣籍に降下したもの及びその子孫は、再び皇族となり、又は新たに皇族の身分を取得することがない原則を明らかにしたものである。蓋(けだ)し、皇位継承資格の純粋性(君臣の別)を保つためである」(引用文中のカッコ内は原文のママ)
「臣籍に降下したもの及び“その子孫”(!)」と明記してある。旧宮家養子縁組プランは、この立法趣旨を真っ向から否定し、「皇位継承資格の純粋性(君臣の別)」を踏みにじる提案だろう。
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