神武天皇の男系子孫ならそれだけで皇位の継承資格を持ち得るはずだ、という錯覚が一部にあるようだ(いわゆるY染色体論も含めて)。
しかし、国民の中にはそのような子孫が数多く含まれる。
このことは、例えば太田亮氏『姓氏家系辞典』(同氏『姓氏家系大辞典』全6巻よりコンパクト…と言っても1530ページあるが、各項目の初めに“出自”を明記してあるので、同大辞典と比べてその点は便利)や『歴史と旅』臨時増刊号「天皇家から出た名家」(22巻2号)の記述などが、一先ず参考になろう。
だから、単に神武天皇の子孫というだけでなく、“現に皇族の身分にあられる方”のみ(!)が皇位を継承できる-というのが、皇室と国民との厳格な「区別」を重んじる皇室典範の立場だ。
これは、過去にあった空前絶後の異例(平安時代の第59代・宇多天皇と第60代・醍醐天皇の例)をもはや繰り返さないという規範意識によるものであり、現代日本における社会全般の世俗化の趨勢の中で、皇位の尊厳を守り、皇室の「聖域」性を揺るがせにしない為に、より一層大切な原則になっている(宇多天皇などのケースもあくまで賜姓源氏であり〔その期間もわずか3年ほど〕、一般国民という立場では勿論ない)。
興味深いのは、古事記に神武天皇のお子様たちを祖先とする意富臣(おおのおみ、日本書紀には多臣〔おおのおみ〕と表記)以下、各地の21の氏族の名前を、ズラリと列挙していることだ。
しかし、神武天皇に“最も近い”血縁の子孫とされているからといって、すでに皇族の身分から離れたこれらの氏族に、皇位継承資格が認められなかったことは改めて言うまでもない(ちなみに、意富臣=多臣氏は古事記を筆録した太安萬侶〔おおのやすまろ〕と同族)。
日本の社会に、神武天皇の男系の血筋を引く国民が広範に存在するという事実を無視して、男系子孫なら一般国民であっても皇族との婚姻を介することなく皇族になれるし、皇位継承の資格すら持ち得るという思い違いは、(憲法違反という以前に)皇室への冒涜以外の何ものでもない。
追記
プレジデントオンライン編集部から連絡があり、私の連載「高森明勅の皇室ウォッチ」から4月29日公開「皇位継承順位は第1位でも『秋篠宮さまは即位するつもりはない』と言えるこれだけの理由」(タイトルは全て編集部が付ける。念のため)が「2022編集部コレクション」に選ばれ、10月5日から再掲載されると言う。
光栄だ。
今年上半期(1月~6月)に各ジャンルでよく読まれた記事のトップ5を取り上げるそうで、私の記事の場合は「社会」ジャンルで2位だったそうだ。
同ジャンルは幅広く関心を持たれる話題が多い“激戦区”。そのような中でも読者の皇室への関心の高さが窺える。
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