では次に、政府見解はどうか。当然ながら、一貫して学説上の「多数説」と同じ立場だ。これまでの国会での政府答弁からいくつか取り上げる。
「必ず男系でなればならないということを、前の(“皇男子孫”による継承を規定した)憲法と違いまして、いまの(世襲という広い要件しか規定していない)憲法はいっておるわけではございません」(昭和41年3月18日、衆院内閣委員会での関道雄内閣法制局第1部長の答弁)
「憲法においては、憲法第2条に規定する世襲は、天皇の血統につながる者のみが皇位を継承するということと解され、男系、女系、両方がこの憲法においては含まれるわけであります」(平成18年1月27日、衆院予算委員会での安倍晋三内閣官房長官の答弁)
なお政府見解については、内閣法制局の執務資料での説明が最も簡にして要を得ているので、念の為にそれも掲げる。
「憲法第2条は、皇位が世襲であることのみを定め、それ以外の皇位継承に係ることについては、全て法律たる皇室典範の定めるところによることとしている。同条の『皇位は、世襲のものであつて』とは、天皇の血統につながる者のみが皇位を継承することを意味し、皇位継承権者の男系女系の別又は男性女性の別については、規定していないものと解される」(内閣法制局 執務資料『憲法関係答弁例集〔2〕』平成29年)
要するに、憲法における「世襲」は、男性・女性、男系・女系を全て含む-というのが、政府見解と学説(多数説)に共通する理解の仕方だ。
それを敢えて“男系”のみに限定する少数説(小嶋和司氏など)は、学界での幅広い支持を得られず、ついに政府見解としても採用されなかった(最近では、令和3年6月2日の衆院内閣委員会での加藤勝信官房長官の答弁も、同じ趣旨を繰り返していた)。
なお、一般的な国語辞書には以下のような説明がある。
「爵位・財産・職業などを嫡系の子孫が代々うけついでゆくこと」(『日本国語大辞典』第12巻)
「その家の地位・財産・職業などを嫡系の子孫が代々うけつぐこと」(『広辞苑〔第5版〕』)
しかし改めて指摘するまでもなく、皇位の「世襲」継承の場合、大正天皇以前には非嫡出子・非嫡系子孫による継承のケースがしばしばあった(『明鏡国語辞典〔第2版〕』『岩波国語辞典〔第8版〕』『新明解国語辞典〔第8版〕』などには「嫡系」という限定はない)。
(了)
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