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  • 高森明勅

皇籍離脱された元皇族及びその子孫が皇室に戻れない根拠とは


皇籍離脱された元皇族及びその子孫が皇室に戻れない根拠とは

保守系オピニオン誌にこんな文章が載っていた。


《一度、皇籍離脱すれば復籍できない》


「(眞子内親王殿下が)結婚して一度皇族を離脱してしまうと、万が一…離婚する場合でも…世間でいう『出戻り』もできない。憲法8条で、皇室から民間への財産の使用は国会の議決なしにはできず、事実上禁じられているからです」(竹田恒泰氏『月刊Hanada』12月号)


奇妙な文章だ。


「皇族を離脱」とあるのは恐らく「皇籍を離脱」の誤植だろう(あるいは「皇族の身分を離脱」)。

又、「出戻り」という俗語をこのような文脈で使うデリカシーの無さには、いささか呆れる(この言葉は「差別的な語」とされているー『明鏡国語辞典 第2版』)。


しかし、それらはともかく、皇籍を離れられた方(元皇族=旧皇族)及びその子孫が、二度と皇籍に戻れないことは事実だ。ところが何故、そうなのか、肝心の理由がまるで説明されていない。「…からです」と言いながら。おかしな文章と言う他ない。


《皇室典範第15条》


文中で取り上げている憲法第8条は、「皇室」とその外部との関係における「財産」の「譲り渡し」「譲り受け」「賜与」についての規定。つまり、既に“外部”であることが確定している相手との関係を扱う条文だ。よって、「一度」皇籍を離脱した方が復籍を認められないことの根拠には、一切ならない。


「民間」から皇室に“戻れない”理由を説明すべき場面で、「皇室から民間への財産の使用」が「事実上禁じられている」事実を述べても、当然ながら何の説明にもならない。


どうやらこの文章の書き手は、皇室制度を巡る知識を身に付けていないだけでなく、論理的思考力も欠けているらしい。皇籍を離れた元皇族やその子孫が二度と皇室に戻ることはできない根拠となる規定は、差し当たり皇室典範にある。その第15条がそれだ。


「皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族になることがない」


すなわち、天皇、男性皇族との婚姻を介さない限り、「皇族以外の者及びその子孫」(ご結婚によって国民の仲間入りをされた元女性皇族も勿論これに該当する)は皇籍を取得できないルールになっている。


《皇位継承資格の純粋性》


同条に対応して、「皇族の身分を離れた者及び皇族となつた者の戸籍に関する法律」では、「(婚姻によって皇籍離脱された元皇族の女性が)離婚するときは、その者につき新戸籍を編製する」(第3条)と規定している。


離婚後も皇籍に復帰できないので、国民としての「新戸籍」が必要になるからだ(国民女性が夫を筆頭者とする戸籍に入っていて離婚した場合は、自分自身が婚姻前にいた戸籍に戻る〔復籍〕か、自分自身を筆頭者とする新たな戸籍をつくることになる)。


なお、いわゆる旧宮家系の国民男性(及びその他、国民の中に多くいる「皇統に属する男系男子」)も当然、同じ皇室典範第15条の適用対象であることは、改めて言うまでもない。先の論者は皇室典範を読んでいないか、同条の趣旨がよく理解できていないようだ。


皇室典範の制定に当たり、当時の法制局(後の内閣法制局)はその意図について以下のように説明している。


「臣籍に降下したもの及びその子孫は、再び皇族となり、又は新たに皇族の身分を取得することがない原則を明らかにし…皇位継承資格の純粋性(君臣の別)を保つため」と。


《日本国憲法第14条第1項》


更に、一たび皇族の身分を離れられた以上は既に(戸籍に登録された)国民なので、憲法第3章の全面的な適用を受けられる(皇統譜に登録された皇室の方々については第1章の適用が優先される)。同章には、以下の規定がある(第14条第1項)。


「すべて国民は、法の下に平等であつて…門地により…差別されない」


“元皇族だから”という理由で、一般の国民とは異なる条件で皇籍を再び取得することは、明らかに同条に違反する。よって、皇籍取得は最高法規である憲法上も、無理なのだ。   


皇籍離脱から更に世代を隔てた旧宮家系子孫については、改めて言うまでもない(勿論、国民の中のその他の「皇統に属する男系男子」も)。先の論者が憲法を根拠に挙げながら、全く見当外れの条文に言及しつつ、唯一、取り上げるべきこの条文を見落としていたのは何故か。


不思議だ。

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