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  • 執筆者の写真高森明勅

自衛隊が「軍隊」でないことを国際比較で論証した自衛官の論文


自衛隊が「軍隊」でないことを国際比較で論証した自衛官の論文

海上自衛隊幹部学校から『海幹校戦略研究』第11巻第1号(令和3年7月)を送って戴いた。


その中に、熊取谷行1佐、堀内智治1佐、アンドリュー・ダフ オーストラリア海軍中佐の三者による「日本と諸外国の防衛法制の比較研究」という論文が収められている。

これは注目すべき研究だ。


《自衛隊の特殊性》


「令和2年10月の時点において日本政府が国家として承認する196ヵ国に北朝鮮を加えた世界197ヵ国の憲法及び軍隊に関する憲法以外の国内法を中心にその(軍隊の)有無を確認する」作業を行ったところ、次のような結論を導くことができた。


「以上197ヵ国の憲法及び85ヵ国の軍隊法等を確認した結果から言えることは、日本の自衛隊のようにその行動と権限が国内法で規定されている他国の軍隊は管見の限り見当たらないということである。

自衛隊は、その部隊規模から世界でも有数の実力組織であり、他国軍隊と同様に国家防衛という役割を有しているものの、その行動と権限のメカニズムにおいては、実態として世界で唯一の特殊性を有する組織と言えるであろう」と。


他国の場合は、国際法(国連憲章第51条等)とROE(交戦規定)に基づき「国防の為の必要な(あらゆる)行動」が、可能だ。

ところが自衛隊の場合は、防衛省設置法・自衛隊法といった国内法の規定に従い、実際上の権限や可能な行動も細かく制約され、明確な法的根拠のない権限・行動は一切、否認されている。


《軍隊か、役所か》


このような自衛隊の「世界で唯一の特殊性」は何に由来するのか。

それは、「自衛隊が国際法上『軍隊』としての取り扱いを受けるとされる一方、国家行政組織法3条2項及び防衛省設置法に基づき設置された行政機関であり、自衛隊による行為は、行政作用の一部として法律に基づき執行される必要がある」為だ。


これに対し、他国では次の通り。


「純粋な行政機関とは異なる組織としての位置付けになっている。

そのため軍隊には行政の基本原則は該当せず、行動と権限の行使において法による規定は必ずしも必要とされていない」


「軍隊の行動や権限を規定する国内法は見当たらず、憲法で規定する最高指揮官の命令(統帥)と国際法に基づき、ROEという手法を用いて軍隊を行動させ、コントロールするというメカニズムが実態として存在している」


このような「メカニズム」でなければ、他国からの予測困難な侵害行為や武力攻撃に対して、軍隊として臨機応変に対処し、「国家防衛という役割」を果たせないからだ。


ところが、他国は全てそのようなメカニズムを備えた「軍隊」なのに、日本の自衛隊だけ(!)は、そのようなメカニズムを持たない、武装した“役所”に過ぎない。

こうした実情を明らかにした当該論文の功績は大きい。


《憲法に役割が書かれているか?》


それに加えて、軍隊を保有する国々のうち、超ミニ国家のセントクリストファー・ネービス(面積260平方キロ=日本の西表島とほぼ同じ、人口5.2万人)を除く全ての国が、軍隊を規律する為に、最高法規である憲法(!)に軍隊の地位、役割、任務等に関する規定を備えているとの指摘も、見逃せない(例外のセントクリストファー・ネービスでさえも、軍隊の権限や行動を拘束する国内法の規定は無い)。


つまり、他国の場合は軍隊を憲法にしっかり位置付ける一方、その権限や行動を縛る国内法を持たないのに対し、日本だけは憲法には何の規定も置かず、自衛隊の権限や行動は全て国内法による制約を押し付けられている、ということだ。


甚だ示唆に富む論文が、海上自衛隊幹部学校の刊行物に掲載されたことは、興味深い。

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