6月24日、各種メディアが一斉に、西村泰彦宮内庁長官の定例記者会見での発言を大きく報じた。
例えば以下の通り。
「宮内庁の西村長官は定例会見で『天皇陛下がオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大に 繋がらないかご懸念されている』と述べました。
西村長官はきよう午後の定例会見で、『天皇陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を大変心配しておられます』
『国民の間に不安の声がある中で、ご自身が名誉総裁をお務めになるオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大に繋がらないか、ご懸念させている、心配であると拝察いたします』と述べました。
その上で、『私としては、陛下が名誉総裁をお務めになるオリンピック・パラリンピックで感染が拡大するような事態にならないように、組織委員会をはじめ、関係機関が連携して、感染防止に万全を期していただきたい』と強い懸念を示しました」(TBS NEWS、同日15時17分配信)と。
《国民統合の象徴というお立場》
このニュースはたちまち大きな反響を呼んだ。 海外でも「日本の天皇が東京五輪開催に懸念」というストレートな報道がなされたようだ。
確かに、天皇陛下が新型コロナウイルス感染症の感染拡大を心配しておられることは、間違いない事実だろう。
ご自身が名誉総裁をお務めになる以上、オリンピック・パラリンピック開催によって感染拡大を助長することにならないか、当事者としてより深刻に懸念されていることも、容易に拝察できる。
ひたすら国民に寄り添おうとされる平素のご姿勢を考えると、まさに他の誰よりも切実に、そのことを案じておられるに違いない。
しかし、その一方で、オリンピック・パラリンピックに向けて懸命に努力して来たアスリート達や、開催の準備に不眠不休で努めて来た関係者などの気持ちをはじめ、政府や組織委員会、東京都の立場など、全てご存じでいらっしゃることも又、疑う余地が無いだろう。
従って、「国民統合の象徴」でいらっしゃる陛下が、オリンピック・パラリンピックの開催に“一方的”にブレーキをかけるような言い方をなさるはずがない。
それは、これまで長年にわたり、「皇太子」(=次の天皇になられることが確定したお立場)として各方面に周到に配慮された、抑制的なご発言を積み重ねて来られた事実を思い返すだけで、十分に納得できるだろう。
ましてや、それが政治的に大きな影響を与えたり、国内に分断を招くようなご発言を、不用意になさるはずがない。
《宮内庁長官との一問一答》
現に、宮内庁長官と記者との一問一答を見ると、次のようなやり取りになっている。
「記者 陛下が五輪が感染拡大のきっかけになるのを懸念されているというのは長官の拝察ということか
長官 拝察です。日々陛下とお接しする中で私が肌感覚として受け止めているということです… 私の受けとりかたですから。陛下はそうお考えではないかと、私は思っています。ただ陛下から直接そういうお言葉を聞いたことはありません。そこは誤解のないようにお願いします」 (朝日新聞DIGITAL、同日、15時40分配信)と。
西村長官が「肌感覚」として、陛下のご懸念を感じ取った。 それは間違いない事実だろうし、実際に、陛下ご自身がご懸念を抱いておられることも、先に述べたように、恐らく確かな事実だろう。
しかし、その一方で、より高いお立場から全体を俯瞰する視野もお持ちであることは、同じく否定できない事実のはずだ。
その中から、長官なりの判断で“切り取った”部分を、恐らく本人なりの責任感によって(陛下のお気持ちを汲み取ったつもりで)発信したと見るべきだろう。
普通、左翼リベラルなら、西村長官の発信の仕方に対し、「天皇の政治利用」と激しく糾弾するような場面とも言える。果たして今回は…。
Comments