• 高森明勅

皇室への誹謗中傷に対する法的空白が長く放置され続けている



皇室への誹謗中傷に対する法的空白が長く放置され続けている

皇室への誹謗中傷に対する法的空白が長く放置され続けている


現在、皇室への誹謗中傷に対処する為の法的なガードは、事実上、皆無に近い。

不敬罪が無くなって、天皇・皇后・皇嗣への名誉毀損・侮辱の行為に対しては内閣総理大臣が代わって告訴する制度になった(刑法232条2項)。


しかし、内閣総理大臣が例えばメディアや出版社などを相手に、果たして適切に告訴を行うのか。


私は以前、この件について、過去にどのような事例があったのか、首相官邸に確認した。ところが、宮内庁に尋ねて欲しいと言う。告訴権は首相が持っているのだから、奇妙な話だ。


でも仕方がないので、宮内庁に確認したところ、首相官邸の管轄なので承知していない、そちらに尋ねて欲しいとの答えだった。こんな調子では、首相の告訴権が適切に行使されているとは考えにくいのではあるまいか。


少なくとも、首相が天皇陛下に代わって公然と告訴権を行使した実例が、私には思い浮かばない。更に、上記以外の皇族方の場合、名誉毀損罪・侮辱罪はそれぞれ親告罪なので(刑法同条1項)、ご自身で(弁護士を雇って?)告訴される必要がある。しかし、これに対する従来の政府の考え方は以下の通り(昭和38年3月29日、衆院内閣委員会での答弁)。


「こういう問題は、親告罪でございまするから、御本人のお気持ちできまることでございまするが、われわれがまあ推察いたしますると、皇族という御身分の方が一般の国民を相手どって原告・被告で法廷で争われるというようなことは、これは事実問題としては考えさせられる点が非常に多いですから、まああまりないと思います」(瓜生順良・宮内庁次長)


「不敬罪という罪を刑法上設ける、あるいは特別立法として設けるというそのことにつきましては、検討はいたしておりません」(高辻正巳・内閣法制局次長)


これでは、皇室の方々は、我々国民に認められている名誉毀損罪・侮辱罪すらも、事実上、封じられているに等しいだろう。


かつて、私は以下のような問題提起を行った。


「憲法上、世襲の象徴天皇という特別の地位を設け、その地位を支える皇室が存在しているのだから、それに見合った制度を整えるのは当然ではないか。その一環として、皇室の尊厳・名誉を守るために、少なくとも親告を待たずに対処できる国民一般とは別枠の法的保護の方策を探るべきだろう。皇族方がご自身で国民を告訴し、法定で争うことが望ましくなく、かと言って皇室の方々への名誉毀損や侮辱が放置されてよいのではない以上、

それは当たり前のことだ。


刑法に名誉毀損罪などが定められても、それがそのまま言論の自由を損なうものでないように、『象徴侮辱罪』のようなものが創設されても、厳格な運用さえ保たれれば、とりたてて懸念すべき点はなかろう。むしろ野放図な言論が横行することで、一方的に皇室の尊厳を傷つけ、自由に反論できない皇族方が大きなストレスに苦しまれ、これに憤激した尖鋭な国民がテロに走って、かえって言論の自由が脅かされるかも知れない。


…むろん、皇室の存在意義について国民が基礎的な知識を共有できるような教育面などの充実も、欠かせない。その方面の手当てもなしに、ただ厳罰で押さえつければよいという話では、もちろんない。そんなことでは、かえって皇室への素直な敬愛の念を削ぎ、いたずらに反感を生み出すだけだ。


何より、皇室の方々がそうした強圧策を望んでおられないだろう。そうではなく、皇室の尊厳のためのトータルな対策が求められていることを知るべきだ。天皇を『統合の象徴』とし、皇室の方々に不自由を押し付けながら、もう一方でその名誉と尊厳を守る配慮を欠くようでは、筋が通らないのだから」(拙著『皇室論』平成25年、初出は同19年)


その後、事態は改善されるどころか、ますます残念な方向に転落しているように見える。


平成28年5月4日には、月刊誌『WiLL』の編集部に若者が侵入し、ペンキと消火剤をぶちまけて、自首した事件があった。同誌(同年6月号)に掲載された西尾幹二・加地伸行両氏の

対談「いま再び皇太子さまに諫言申し上げます」に憤激したのが、動機だったようだ。

いつまでもこのような状態を放置してはならない。


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