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  • 高森明勅

皇位継承を巡る国会全体会議で政府と衆参議長の無責任さ露呈

更新日:1月21日


皇位継承 国会全体会議


政府は去る1月12日、皇族数の確保策(?)をまとめた有識者会議の報告書を、ろくに検証・吟味もしないで、そのまま衆参両院の議長に手渡した。


こうして、国会が附帯決議として政府に求めていた皇位の安定継承という課題への検討が、「白紙回答」として国会に戻されたことになる。 これに国会がどう対処するか、注目する必要がある。

早急?それともゆっくり?

国会側の“最初の動き”として18日、上皇陛下のご譲位を可能にした法整備の際の前例に倣い、衆参両議長の呼び掛けで全政党・会派の代表者が衆院議長公邸に集まって、最初の会合(全体会議)を持った。


まずは検討結果について、政府の説明を聴く為だ。


しかし、この時の議事録を見ると、政府及び衆参議長の余りにも無責任な態度に驚く。 何と言っても、衆参議長が今後どのような“日程と手順”で各党・会派の意見集約を図り、国会としての総意を形成して行くか、全く見通しを持たないまま、呼び掛けを行ったらしいのに呆れる。


大島理森前衆院議長がリーダーシップを発揮されて、特例法の骨格について国会全体の合意を実現した時の周到なやり方と、まるで違う。


特にビックリしたのは、会合の締め括りでの両議長の挨拶。


細田衆院議長が「早急に検討していただきたい」「できるだけ早急に議論をしていただく」「なるべく早く検討していただきたい」と繰り返し“スピード感”を強調しているのに対し、山東参院議長は逆に「いつまでとか、あるいは余り早くというこではなしに、やはり慎重に大いにいろいろな角度から議論していただく」と思いっきり“ブレーキ”をかけていた。 唖然とせざるを得ない。


議論の進め方について、両議長の間ですら合意が出来ていない実情が露呈している。 初めからこれでは、先行きが思いやられる。

質疑応答での発言は3人

政府側の説明後の質疑応答で発言したのは、みんなの党の渡辺喜美代表、自民党の茂木敏充幹事長、立憲民主党の野田佳彦「安定的な皇位継承に関する検討委員会」委員長の3人だった。


最初に発言された渡辺代表は、「男系女子」の皇位継承を容認すべきことを示唆し、歴代天皇に“非嫡出・非嫡系”が多くおられた事実を取り上げ、皇室財産の在り方にも言及。


茂木幹事長は報告書を「バランスの取れた内容」と評価して、今上陛下から秋篠宮皇嗣殿下、更に悠仁親王殿下へという現在のルールに基づく皇位継承の順序を「ゆるがせにしてはならない」とし、皇位継承と切り離して“皇族数の確保”だけを検討した有識者会議の姿勢を支持した。

野田委員長の発言は報告書=政府の検討結果に対する的確な批判になっていた。

野田氏の指摘は3点

野田氏の発言趣旨は以下の通り。


①報告書6ページに「次世代の皇位継承者がいらっしゃる中でその仕組みに大きな変更を加えることには、十分慎重でなければなりません」とあるが、次世代の皇位継承候補者は悠仁親王殿下お1方だけ。


幸い大事には至っていないが、悠仁殿下が乗られたワゴン車が高速道路で前の車両に追突した事故(平成28年11月)や、殿下が通われるお茶の水女子大学付属中学校に刃物を持った不審人物が侵入した事件(同31年4月)などが既に起きている。

次世代の継承候補者が複数いらっしゃる状態ならともかく、たったお1方しかいらっしゃらない事実への危機感が欠けているのではないか。


②同10ページに婚姻後も皇族の身分を保持される女性皇族の「配偶者と子は皇族という特別の身分を有ぜず、一般国民としての権利・義務を保持し続けるものとする」とあるが、それならば その方々の政治活動・経済活動・宗教活動などの自由が尊重されなければならない。

だがそのことと、「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」「国政に関する権能を有しない」とされる憲法上の天皇及び皇室のお立場と、両立できるのか。


③養子縁組で皇族の身分を取得した(しかし皇位継承資格は持たない)男性が縁組後に結婚した相手は、皇族の身分を取得できるのか、又、お子様は皇族になるのか、そのお子様が男子なら皇位継承資格を認められるのか、いずれも報告書に言及していないが、政府はどう考えているのか。

政府側は事実上「無回答」

これらに対し、政府側は内閣官房皇室典範改正準備室の大西証史室長が回答に当たった。 しかし、事実上の無回答に終わった。


①に対しては、「悠仁様までしかいない(=悠仁殿下までは、たとえ候補者がお1方でも絶対に大丈夫)ということも十分に認識」した上で議論したと述べた。


だが、悠仁殿下のご安全に万全を期すべきは勿論ながら、これまでも実際に危ない場面があった。殿下のご即位を100%既定の事実と見て検討するのは、皇位の重みに照らして余りにも危機感が足りないというのが、野田氏の問題意識だった。

まさに政府の危機感が無い“能天気さ”を証明した答え方と言う他ない。

しかも、野田氏が実例として挙げたワゴン車の追突事故も不審人物の侵入事件も、「具体に…思い出すことができません」と述べて、呆れた認識不足ぶりを晒している。

皇室典範改正について政府関係者の中では最も事情に精通しているはずの人物がこのレベルとは。


②については、「そこはまさに今後の国会の先生方の間での御議論を含めまして御検討いただくところでありますし、また、その結果を受けまして私どもも検討しなくてはならないところはあると思います」との回答。 早速、“見直し”に含みを持たせたような言い方だ。


③は完全にはぐらかした。

さすがに野田氏もこの点を追撃されたものの、全く答えずに、現在の制度では「皇族の夫婦から生まれた子は皇族となる」と述べただけで逃げた。


養子が縁組後に結婚した相手が皇族になるのかどうか不明なら、そのお子様が「皇族の夫婦から生まれた子」に該当するかも当然、不明だ。 国民の代表機関である国会に対する態度として余りにも不誠実だ。

以上、新しいステージは悪い予感しかしないスタートになった。

しかし、山東参院議長がおっしゃったように「大いにいろいろな角度から議論」すれば、政府の検討結果の“駄目さ”加減がますます周知されるはずだ。

問題の所在をほぼ的確に掴んでおられるらしい野党が存在していることも分かった。 政府の検討結果が余りにもお粗末過ぎたせいで、そのまま制度化されるとは限らない局面が見えて来た。

今後、国会での真剣な取り組みと、国民の熱意が問われる。

追記

今月から「プレジデントオンライン」(プレジデント社)で原則、毎月1回の連載を開始することになった。

大きな出来事があれば臨機応変に複数回も可能というのはネットメディアの強みだろう。

又、別に月刊誌「カレント」(潮流社)でも2月号から連載を開始する。 「プレジデントオンライン」で皇室に関わる時事的・政治的な話題を主に取り上げるのに対し、「カレント」では基礎的な知識を整理したい。更に、保守系の「表現者クライテリオン」(啓文社書房)3月号とリベラル系の「Journalism」(朝日新聞社)4月号にも原稿を寄せる。




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