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執筆者の写真高森明勅

皇統問題は急がない?


皇室の皆様

皇統問題は急がない?

某国大使館の女性の一等書記官にレクチャーしていた時。次のようなやり取りがあった。


某「天皇陛下はまだお若いので、皇位継承を巡る取り組みを急ぐ必要は無いですね」


私「そんな事はありません」


某「と言いますと…」


私「将来、今のルールのまま悠仁親王殿下が即位されると仮定した場合、その頃の日本の皇室がどんな様子か想像してみて下さい。内親王、女王殿下方は皆様、既に結婚されて、国民の仲間入りをされているはずです。他の皇族方は、恐らくお若くても80歳より少し手前、というご年齢でしょう。皇族数がガクンと少なくなり、年齢も遥かに高齢化します。先の前提で考えると、そういう状態で即位される可能性が、最も高い。そのような場面が予(あらかじ)め想定されるとしたら、民間の女性が結婚するハードルは、極めて高くなりませんか」


某「確かにそうですね」


私「畏れ多い話ですが、上皇陛下も、天皇陛下も、かつてご結婚を申し込まれた時に、それぞれ一旦は断られてしまっています」


某「それは知っていました」


私「余りにも責任の重いお立場への躊躇(ためら)いが、女性の側にあるのです。それも当然でしょう。そのように、普通の状態でもご結婚のハードルは高い。それが先のような状態だと、一層ハードルが高くなってしまう。皇室のご公務を精力的に担えるのは、まだご高齢ではない悠仁殿下お一人だけ…という皇室の状態がかなりの確度で予見されると、ご結婚のブレーキになりかねない」


某「理解できます」


私「又、配偶者となるたったお一人の女性が、少なくとも男子をお一人以上“必ず”お生みにならなければ、もうそれだけで古代以来続いて来た、日本にとって掛け替えの無い皇室そのものが、永遠に途絶えてしまうという、余りにも厳しい現実があります。それは、皇室に嫁ごうとする女性にとって、想像を絶するプレッシャーなはずです。それを跳ね退けて、ご結婚に踏み切って戴ける女性が果たして現れるか、どうか。ご本人の決断を後押しし、喜んで送り出して下さる家庭が現れるか、どうか。今、言ったような厳しい状態なら、決して楽観を許さないでしょう」


某「…」


私「万が一、そのような女性が遂に現れなければ、もうそれだけで、日本の皇室は行き詰まってしまう。だから、少しでも民間の女性が皇室に嫁ぎやすい環境を、速やかに整えておく必要があります」


某「なるほど」


私「更に、内親王方が今の制度の下で国民男性と結婚されるなど、皇族がいったんその身分を離れられたら、原則としてもう皇室にはお戻りになれない。これは、皇室の“聖域”性を守る為のルールですから、容易(たやす)く変更する訳にはいきません。ですから、そうした方々が結婚された後では、未来に向けて安定的な継承を確保する為の選択肢が、もう殆ど残されていないのです」


某「そうなんですね」


私「しかも、よく考えて戴きたいのは、内親王方はご自分の人生の将来を見通せないまま、現在に至っているという事実です。日本の国民が皇室の存続を望むなら、皇室制度は何らかの変更をどうしても避けられません。ご本人は一切タッチ出来ないにも拘らず、その変更がどんな内容になるかよって、ご自分の人生が全く違ったものになってしまう。


他国の方には随分、理不尽な話に聞こえてしまうでしょう。私自身も、当事者である皇室の方々が皇室制度の変更に全くタッチ出来ない、という現在の在り方は不合理だと思っています。しかし、今のところそれが早々に改善されるとは、残念ながら考えにくい。だから、国民の側で当事者の方々に配慮し、責任を持って早く適切な手を打たなければなりません。


しかし、それをしないで、先延ばしを続けて来ました。ご結婚と共に国民の仲間入りをされるのか、それともそのまま皇室に残られるのか。それが見通せないまま宙ぶらりんの状態が、お生まれになってから現在まで、ずっと続いています。これは当事者にとって、大変残酷な話ではないでしょうか。当事者のお気持ちを考えると、今すぐに制度改正に着手しても、遅すぎると言うべきでしょう」


某「ごめんなさい。今まで気付きませんでした。おっしゃる通りですね。よく分かりました」


―でも、彼女が謝る必要なんて、さらさらない。直接責任を負うべきわが国の政治家たちすら、この現実に気付いていないか、気付いても無為無策のまま今日まで過ぎてしまったのだから。勿論、それを長年、放置して来たのは国民の無関心、危機感の無さが最大の原因だ。

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