「グレーゾーン」事態と米軍
アメリカは1900年代から現在までの100年間に僅か5回しか戦争をしていない。と言えば、誰でも驚くはずだ。しかし、アメリカの特殊作戦軍司令部(SOCOM)が2015年9月にまとめた白書(White Paper,The GrayZone)によれば、過去100年間のアメリカの軍事行動のうち、戦争に該当するのは2回の世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして湾岸戦争だけ。ぴったり5回。
それら以外の57回の軍事行動は全て“戦争”未満の「グレーゾーンの作戦(gray zone operations)」だったという。グレーゾーンの範囲が尋常でなく広い(武居智久・齋藤雄介『海幹校戦略研究』9巻1号)。
わが国の「武力紛争には至らないような対立や紛争」(22防衛大綱)という概念規定とは違いが甚だしい。もちろん、米国務省などは「武力紛争の水準以下にとどまる競争的な相互作用」といった、わが国とも共通する理解の仕方をしている。しかし、「米国では、政府内に…統一された定義があるわけではなく…曖昧な状態にあるのではないか」との疑念が示されている。「この曖昧性がグレーゾーンにおける日米の共同した連携において潜在的な脆弱性となる可能性を否定できない」と(前出、武居氏ら)。
但し、グレーゾーンが「武力攻撃事態」「存立危機事態」の“手前”である限り(手前でなければ最早“グレー”ゾーンではない)、わが国は憲法上「自衛権」を行使できない(警察権の行使にとどまる)。わが国自体が自衛権を行使できない(=自衛隊の防衛出動が下令されない)段階で米軍との「連携」を期待するのは順序が違う。勿論、米国政府との“非”軍事的な「連携」なら可能。だが、その実効性はかなり限定的だろう。
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