• 高森明勅

「皇女案」批判のおさらい

最終更新: 1月24日



政府が検討していた「皇女」制度案。今後も看板を掛け替えて再浮上する可能性が皆無ではない。そこで念の為に、先頃、共同通信から配信された拙稿を掲げて、参考に供する(タイトルは私が提出したもの。新聞掲載時には変更)。


「皇女」制度案の問題点


先頃、政府が皇族の減少への対策として、未婚の女性皇族が今後、結婚により国民の仲間入りをされた後も、「皇女」という尊称を贈り、特別職の国家公務員として、引き続き皇室のご公務を担われる新しい制度を検討している、との報道があった。しかし、この制度案には多くの問題がある。


そもそも、政府が新制度を検討しているのは、上皇陛下のご譲位を可能にした特例法の附帯決議に応えるためだ。同決議が求めているのは「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」への取り組みだった。


ところが、今回の「皇女」制度案はそれと全く無関係だ。改めて述べるまでもなく、一度皇族の身分を離れた方々は、もう二度と皇室に戻ることはできない。「皇女」案が制度化されても、若い世代の皇族が、結局、秋篠宮家の悠仁親王お一人だけになってしまうことに変わりはない。


そのような将来が予め明確に見通せる状況下では、率直に言って、悠仁殿下のご結婚は通常以上に至難になるだろう。


特に今の制度のままなら、ご結婚相手は必ず男子を一人以上生まなければ、皇室そのものが消滅の危機に直面する。そのような想像を絶する重圧を覚悟して、敢えて結婚を決断できる

女性が現れるか、どうか。


万が一、悠仁殿下がご生涯、独身を通されたら(戦後では桂宮の例があった)、もうそれだけで皇室は存続できなくなる。「皇女」と呼ばれる公務員が何人おられても、皇位の安定継承にも、皇族の減少それ自体の回避にも、何ら寄与しない。


しかも、この制度案は憲法上も、人道上も、深刻な問題を抱える。

女性皇族が結婚によって国民になられた場合、憲法が保障する権利と自由(例えば表現、居住、移転、職業選択の自由など)は最も尊重されなければならない。


だが、そのことと、皇室のご公務への協力を委嘱する制度は、果たして十分に整合性を保てるのか、どうか。国民になられた以上、その委嘱を辞退する「自由」もお持ちのはずだ。しかし、そこに“暗黙の強制”が働かないか。もし強制の影が見えたら、国民の皇室への素直な敬愛の気持ちは損なわれるだろう。


又、ご結婚相手の国民男性の自由な政治活動、宗教活動、経済活動などを制限する訳にはいかない。にもかかわらず、その妻である元皇族女性が、「国民統合の象徴」である天皇を支える皇室のご公務を分担する、という仕組みは両立が可能なのか。


さらに、特別職とはいえ、公務員なのに特定の「血統」に属する人間しか就くことができないという制度は、ほとんど新しい“身分”を設けるに近い。憲法における国民平等の原則に抵触する恐れがある。


元来、「皇女」は“天皇の娘”を限定的に指す語だ。今の皇室でそれに該当するのは、敬宮殿下お一人だけだ。秋篠宮家の内親王方は、天皇の孫娘に当たる。他の女王方の場合だと、より血縁が遠い。それらの方々まで実態とかけ離れた尊称を贈ることは、端的に言って言葉の誤用であり、詐称との非難を受けかねない。


政府は、目先を誤魔化すだけの姑息で無理な制度案に逃げ込むのではなく、国会決議の趣旨を踏まえて、皇位の安定継承に向けた本筋の検討に取り組むべきだ。


―同制度案の元になったアイディアは、日本会議系の有力な「男系維持」論者が強く唱えておられたプランだったはずだ(狙いは「女性宮家」を“葬る”こと)。しかし、立場が同じはずの人達からも、「皇女案」は少なからず批判を受けていた。

私としては、興味深く歓迎すべき展開だった。

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神道学者 / 歴史家 / 天皇・皇室研究者  高森明勅公式サイト

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