top of page
  • 執筆者の写真高森明勅

天皇は「国民」か?

更新日:2021年5月14日

普通の感覚だと、“天皇が国民であるはずがない”という話になるだろう。しかし、憲法学上の意見は対立している。これについて、比較的よく整理されていると思われる記述を紹介する。


「まず、日本国憲法下では、明治憲法下のような皇族と臣民(しんみん)との区別は存在しないはずであるとの基本的認識から、天皇および皇族はともに(基本的人権の)享有(きょうゆう=権利・能力などを生まれながら持っていること)主体である『国民』とし、ただ天皇の職務および皇位の世襲制からくる最小限の特別扱いが認められるとする説(A説)がある。


だが、反対説も有力で、天皇が象徴にしてあらゆる政治的対立を超越した存在であることを重くみて、天皇は享有主体である『国民』に含まれないとし、皇族については『国民』に含まれるとしつつ、天皇との距離に応じた特別扱いが認められると説き(B説)、あるいは、皇位の世襲制を重くみて、天皇および皇族ともに『門地(もんち=家柄、家格)』によって『国民』から区別された特別の存在にして基本的人権の享有主体ではないと説かれる(C説)。


明治憲法との対比でみると、A説は説得力をもち、また、象徴も天皇の公的地位にまつわる特殊な任務とみれば、B説のように天皇と皇族とを区別する根拠に欠けるとまではいえない。


天皇ないし皇族を『国民』でないとすると、両者の特別扱いを必要以上に大きくしないか、の実際上の懸念も理解できる。


が、他面、憲法は、主権者国民の総意に基づくとはいえ、近代人権思想の中核をなす平等理念とは異質の、“世襲の『天皇』”を存続させているのであって、現行法上天皇および皇族に認められている特権あるいは課されている著しい制約ーーそれが世襲の象徴天皇制を維持するうえで最小限必要なものと前提してーーが是認されるとすれば、その根拠はまさにこの点に求めざるをえず、憲法14条の『法の下の平等』条項下の『合理的区別』論で説明しうる

事柄ではないと解される…。


つまり、憲法は基本的人権の観念に立脚しつつも、天皇制という例外を導入したのであって、結局C説のように解さざるをえないと思われる」(佐藤幸治氏『日本国憲法論』平成23年、成文堂)


精密な憲法学的な思考による結論も、ほぼ一般人の常識の地点に帰着するようだ。

私のような素人にとっては、憲法で「天皇」と「国民」が併記されている条文を通覧すると、両者は明らかに“別の”範疇として扱われているとしか、理解できない。

この点は改めて。

bottom of page