藤重太氏は、台湾での新型コロナ対策の成功について、以下のように述べておられる。
「清廉潔白で無私無欲な政治家が台湾政府の中枢にいたことも、今回の成功の大きな要因だったかもしれない」(『国会議員に読ませたい台湾のコロナ戦』)と。例えば、副総統として新型コロナウイルス対策に尽力した陳建仁(ちんけんじん)氏のことを思うと、まさに指摘の通りだろう。
陳氏は台湾のナンバー・ツーでありながら、立法委員(国会議員)の経験は無い。公衆衛生分野で世界トップの米ジョンズ・ポプキンス大学の大学院で博士号を取得。2003年に台湾がSARS(サーズ)危機に直面した時に、行政院(内閣)衛生署長として、感染拡大を食い止め、終熄(しゅうそく)に導いた英雄だ。
「陳建仁副総統がSARS終息後、衛生署長として行った防疫に関する組織構造の強化や人材育成。伝染病防治法改正によって虚偽情報の拡散など違反時の罰則を規定し、防疫物資の徴収などに関する規定を設けた台湾の防疫体制の強化。これらが、台湾の新型コロナウイルス対策でことごとく大きな効果を生んだのである」(同書)
その陳氏が去る5月20日に副総統を退任した。
これについて、藤氏の記述を引用する。
「陳建仁副総統は、敬虔なクリスチャンで、普段から自分は『無用のServant』として黒子(くろこ)に徹する事を旨としていた人物だ。5月18日の退任挨拶では、2300万人の台湾国民に向けて、『私は国民に奉仕する公務員です』『私は元の中央研究所に戻ります。研究を続け、論文を発表し、本を書く時が再び来ました』と笑顔を見せた。そして、副総統の4年間の恩給約7500万円と副総統待遇を辞退した。
蔡英文総統は『副総統は台湾史上、最も多忙で重要な仕事を成し遂げ、私を支えてくれた兄のような存在でした。陳氏に心から感謝します』とメッセージを送っている」(同)
台湾では新型コロナ禍の最中、このような人物が政府の中枢で重責を担っていたのだ。