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  • 執筆者の写真高森明勅

内親王の尊厳

更新日:2021年1月26日


内親王の尊厳

産経新聞(4月15日付)の記事によると、政府は旧宮家系国民男性の皇籍「取得」案について、3つのやり方を考えているようだ。


▽内親王と旧宮家系男性の結婚。

▽宮家の養子に入る。

▽そのまま皇籍取得。


これらの中で、内親王と旧宮家系男性の結婚による取得方法を“最初”に持って来ているのは、他のやり方と比較して、政府関係者がより“自然”な形と考えたからだろう。確かに皇室典範において、皇族以外の者が皇籍を取得できるのは、皇族との結婚によって“のみ”(15条)とされている(養子はむしろ明文の規定によって否定。9条)。その考え方を前提として、内親王との結婚が優先項目とされたのだろう。


しかし、よりによって内親王の結婚を、旧宮家系男性の皇籍取得の「手段」の1つと位置付ける感覚は、常軌を逸していると言う他ない。内親王の“人間としての尊厳”をどう考えているのか(勿論、旧宮家系男性も同じく)。私は以前、以下のように指摘した。


「(女性天皇)“反対派”の態度として非常に問題なのは、『女性皇族と旧皇族(子孫)の婚姻を』などと、他人の人生をまるで将棋の駒のごとく扱う発言が多いことです」(週刊ポスト1月17日・24日号)まさか、政府自身が内親王の「人生を将棋の駒のごとく扱う」発想でいたとは。


皇室法研究の第一人者で元最高裁判事の園部逸夫氏も、皇位の安定継承を巡る多様な対応案を列挙された中で、側室制度案と共に「内親王・女王の配偶者を旧皇族の男系男子子孫など過去の天皇の男系男子子孫に限定する案…は、国民の受け止め方や当事者・関係者のお気持ちを考慮して対応案から除いて」おられた(『皇室法入門』)。


端(はな)から選択肢としてあり得ないということ。それを敢えて持ち出した“心ない”政府の姿勢が、内親王殿下方ご本人に知られないはずはあるまい。その事実をお知りになった、お若い内親王殿下方がどれだけ不快な、悲しいお気持ちになられるか(更にそのご家族も)。


想像するだけで、申し訳なさに身が縮む思いがする。又、圧倒的多数の国民も、こうした非人道的なやり方には、強い嫌悪感を抱くに違いあるまい。現実的には万が一にもあり得ないだろうが、内親王と旧宮家系男性の「強制」的な結婚が取り沙汰されること自体、国民の皇室への素直な敬愛の気持ちを大きく傷つけるものだ。

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