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  • 執筆者の写真高森明勅

天皇陛下新年最初の行事・四方拝

更新日:2020年10月31日


天皇陛下新年最初の行事・四方拝

天皇陛下新年最初の行事・四方拝

天皇陛下の新年最初の行事は「四方拝(しほうはい)」。


宮中三殿の西方にある神嘉殿(しんかでん)の前庭に設けられた仮設の御遥拝所(ごようはいじょ)で行われる。内廷職員による行事の準備が始まるのが午前4時。辺りは真っ暗闇で、前庭の玉砂利にまだ霜が降りている頃だ。上皇陛下は皇居内の御所にお住まいでも、行事の場所に向かわれるのに、ご潔斎(けっさい、かかり湯をされ身を清められる)を済まされた上で、午前4時半過ぎに御所を出発されていた(但し近年はご高齢に配慮し場所を御所内に移しておられた)。天皇陛下は、今年は赤坂御所からのご移動なので、もっと早くご出発になったはずだ。この時はモーニングコートをお召し。


到着されると、三殿と棟続きの綾キ〔“糸”偏+奇〕殿(りょうきでん)にお入りになって、お手水をされた後、黄櫨染御ホウ〔“衣”偏+包〕(こうろぜんのごほう)にお着替えになる(即位礼正殿の儀でお召しになった古式のご装束)。まだ夜明け前の午前5時半近く、天皇陛下は再びお手水の後、神嘉殿の簀子(すのこ、縁側)から前庭に降り立たれる。庭には2ヵ所、かがり火が焚かれている。御遥拝所には二双の屏風(びょうぶ)が向かい合わせに立てられている。天皇陛下はその屏風の中にお入りになる。屏風の中には御座(ぎょざ、御畳)が設けられ、一対の菊燈台(きくとうだい、台座を菊花にかたどった灯明台)によって僅かに明るさが保たれている。


陛下が着座されると出入口となった屏風の北東側が閉じられる。屏風には四季折々の絵が描かれている。屏風は南西側だけが開いた状態だ。この方角の彼方には皇祖・天照大神を祀る伊勢の神宮が鎮座している。1月1日の午前5時半。真冬の屋外で、地面の敷物に厚畳を置いただけの状態では、身も凍るような寒さに違いない。


天皇陛下は先ず伊勢の神宮に向かって遥拝をされる。その後、東→南→西→北の順で四方の神々を拝礼をされる。その際のご作法は、「起拝(きはい)」という最も丁重かつ厳粛なご作法だ。天皇陛下の宮中でのご作法は起拝を通例とする(皇太子も同じく)。普通なら御玉串(おんたまぐし)の根元を両手で執られながら起拝をされる。しかし、四方拝では御玉串を捧げられない。なので、御笏(おんしゃく)を手にされてのご作法となる。以下の通り。


御笏を右手に持ち、正座の姿勢から先ず右足より立つ。両足を揃えて、両手で笏頭(しゃくとう、笏の上の部分)を目の高さまで上げ、腰を折って深々と頭を下げながら、左足からしゃがんで正座の姿勢に戻り、そのままうつ伏せられる。それを2度繰り返された後、正座のまま1度、深く頭を下げ、更に同じ起拝を2度繰り返される。前段と後段で2回ずつ、合わせて4回の起拝が行われる。それを「両段再拝(りょうだんさいはい)」と呼ぶ。


一般の神社の神職より遥かに敬虔なご作法だ。それを、伊勢の神宮と四方で同じように行う。従って起拝が20回、前段と後段の間の深いお辞儀が5回、合計で25回も、深く頭をお下げになる事になる。身体的にも大変大きなご負担だ。四方拝は、ご代拝が認められないので、天皇陛下がご体調その他の理由で行えない時は、そのまま中止となる。


四方拝の後は引き続き、三殿で「歳旦祭(さいたんさい)」が執り行われる。同祭は「小祭(しょうさい)」なので、「天皇」と「皇太子」だけが携わられる。他の皇族方のご参列はない。天皇陛下は歳旦祭で、賢所(かしこどころ)・皇霊殿(こうれいでん)・神殿で、それぞれ御玉串を執られて起拝(両段再拝)をなさる。この祭典について、上皇后陛下が皇太子妃の頃、次の御歌を詠(よ)まれている(昭和54年)。

去年(こぞ)の星 宿れる空に 年明けて 歳旦祭に 君いでたまふ

(去年の星がまだ夜空に残っているまま、新しい年が明けて、皇太子である君は歳旦祭にお出ましになる)皇室祭祀は、皇統の「世襲」継承者としての大切なお務めだ。

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