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  • 執筆者の写真高森明勅

天皇陛下、二十歳の御製

更新日:2021年3月29日


加冠の儀に望まれる天皇陛下

天皇陛下、二十歳の御製

昭和55年2月23日、天皇陛下は二十歳(はたち)におなりになった。当時は学習院大学に在学中でいらっしゃった。この日、陛下は皇居の宮殿「春秋の間」で、成年式に当たる「加冠(かかん)の儀」に臨まれた。

加冠の儀では、未成年の被(かぶ)り物である空頂黒サク〔巾プラス責〕(くうちょうこくさく)が、加冠役の東宮侍従(とうぐうじじゅう)によって外され、成人用の冠(かんむり)が被せられる。その時に、冠を固定する為の白い懸緒(かけお)が顎(あご)で結ばれ、余った緒の端がハサミで「パチン」と音高らかに切り揃えられる。この瞬間が儀式のクライマックスと言ってよい。

陛下は、この時の感慨を次のような御製(ぎょせい)に詠(よ)んでおられる。

懸緒断(た)つ

音高らかに

響きたり

二十歳の門出(かどで)

我が前にあり

実に堂々たる詠みぶり。既に“王者の風格”を感じさせる。この頃は昭和時代。だから、上皇陛下が「皇太子」でいらした。天皇陛下はまだ皇太子にもなっておられなかった(だから二十歳で成年式、皇太子なら18歳)。にも拘らず、早くも将来の天皇たる御方に相応しい、 揺るぎない御覚悟と圧倒されるような御気迫が、溢れている。

ちなみに上皇后陛下はこの時、「二月二十三日浩宮(ひろのみや=天皇陛下)の加冠の儀とどこほりなく終りて」という詞書(ことばが)きを付けた長歌を詠まれている。その反歌だけを掲げておく。

音さやに

懸緒截(き)られし

子の立てば

はろけく遠し

かの如月(きさらぎ)は

いかにもお優しげな、上皇后陛下らしいお詠みぶり。立派に成年式を終えられた天皇陛下を前にして、既に遠くなった20年前の、「如月」にお生まれになった当日のことを、遥かに回想されたのだ。


画像:「加冠の儀」に臨む天皇陛下。

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