top of page
  • 執筆者の写真高森明勅

岡野友彦教授から

更新日:2020年12月19日


日本史学者で皇學館大学教授の岡野友彦氏。

先日、わざわざご高著『源氏長者(げんじちょうじゃ)―武家政権の系譜』(吉川弘文館)をご恵送戴いた。


だが、同氏と面識はあるものの、互いに著書を贈り合うほど親しくない。


どうした事かと首を傾げた。

「あとがき」を読んで理由が分かった。


同著は同氏の旧著『源氏と日本国王』(講談社現代新書)を大幅に書き換えたものらしい。

今から15年も前の著書だ。


それが刊行された時、妙な経緯から、私がコテンパンに批判した事がある。


同氏ご自身が、新著の「あとがき」に「(旧著は)勢いに任せて思いのままを書かせてもらった以上、『論理の飛躍』などあたりまえ」と書かれている位だ。


まだ年齢が40代半ばで、血気盛んだった私が、情け容赦なく批判したのも、やむを得ない。勿論、そのせいばかりではないだろうが、同氏は旧著を「実は『なかったことにしたい』作品』」「完全に『終わった仕事』と考えていた」とか。


同「あとがき」には、私からの批判にまで、フェアに言及して下さっている。


「(新著で全面的に改稿した1つは)中世日本の『国家主権』という概念についてである。

…『社会の多元的構成と政治の一元的統合の欠如を特色とする封建社会の分析に、主権なる制約なき権力形態を適用しようとすること自体、甚だしい時代錯誤ではなからうか』という高森明勅氏のご批判(『月曜評論』2004年3月号)は誠にごもっともであり…問題の本質は…そもそも中世・近世の『王権』の所在を、幕府か朝廷か、天皇か将軍かという二者択一で議論してきたことそのもの」と。


まことに光栄だ。


同氏が、長く見逃されがちだった「源氏長者」という地位の歴史的な意義に注目されたのは、私ごときが殊更言う迄もなく、十分に学術的な価値を持つ。


但し旧著では、せっかく重要な着眼点を見付けられながら、それを禁欲的に実証と論理でキッチリ突き詰めるという、学問としては王道の手順を、丁寧に踏まれていなかったように見えた。


だから私は、「岡野氏の新説にはなほ説明が尽くされてゐない点が多く、あまつさへ自家撞着も少なくないやうに見える」などと、生意気な事を書いた。


新著では、かつての欠点を、どう克服されているだろうか。

これから拝読し、改めて学ばせて戴きたい。




閲覧数:234回
bottom of page