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  • 執筆者の写真高森明勅

クリスチャン10世の「ナチスへの抵抗」

デンマーク国王、クリスチャン10世。

第2次世界大戦の当時、同国はナチスの占領下に置かれた。

その時、クリスチャン10世はどのように振る舞ったか。

「デンマーク国民にとって『ナチスへの抵抗』の象徴となっていたのが、ほかならぬ老国王クリスチャン10世であった。国王は占領の翌日からコペンハーゲンの町を毎朝馬で散策した。乗馬はそれまでの日課でもあったが、ドイツ軍の兵士たちが見守るなか、護衛もつけずに1人で愛馬と散策する国王の姿は、ドイツに対する無言の抵抗と国民の目には映っていた。

事実、ドイツ兵が彼に敬礼しても国王はいっさい無視し、普通に挨拶してくる一般市民にはいつものとおり優しく言葉をかけるのであった。1942年9月には…国王の72歳の誕生日を祝って、ベルリンからヒトラー総統直々の電報が届いた… これに対する国王の返礼は『お言葉に感謝する。クリスチャン国王』という素っ気ない返信電報だけであった。激怒した総統は…政権の交代まで要求してきた。…デンマーク在住のユダヤ人に『ダビデの星』をつけるようにとの要求にも断固反対した。 国王は『デンマーク国民であるユダヤ人』にはナチスに指一本触れさせなかった。…レーヴェンシュタインも鋭く指摘するとおり、『…デンマーク国王は、侵略者がかれの品格を傷つけることができず、またかれがすでに存命中に伝説となったほど、悠然かつ大胆に行動したのであった』


こうしてデンマーク国民は、ナチス・ドイツの占領下にあった5年間を、まさに国王とともに乗り切り、戦後の新しい時代を迎えることになった」(君塚直隆氏『立憲君主制の現在』)

共和制を無条件に讚美し、君主制を無条件に批判する傾向が昔はあった。しかし、朝鮮民主主義人民「共和国」や中華人民「共和国」などの国民と、クリスチャン10世のような国王を戴いたデンマークの国民と、一体どちらが幸せだろうか。

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