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  • 執筆者の写真高森明勅

「天皇」に始まり「天皇」に終わる憲法

日本国憲法の出自は大変不幸。

そんな憲法でも「天皇」は極めて重視している。

これまでも指摘して来たように、第1章(!)に「天皇」の規定を一括して置いている。 憲法全体の構成を見ると、天皇→戦争放棄→国民の権利と義務→国会→内閣→司法→財政→地方自治→改正→最高法規→補則という配列。

明らかに優先順位に配慮した並べ方だ。

「天皇」は最優先されている。

更に第1条は以下の通り。

「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」憲法の本文は「天皇」という語から始まっている。

しかも天皇は、“唯一”の「日本国の象徴」かつ「日本国民統合の象徴」という至高(!)の地位にあり、その地位は「主権の存する日本国民の総意に基く」として、憲法上、最も堅固で確実な基盤に立脚する、と定める。 では締め括りはどうか。

補則を除外すると、第10章「最高法規」が最後に置かれている。

同章の最後は99条。 その条文は以下の通り。

「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」これも「天皇」から始まる。

日本国憲法はまさに(第1条の)「天皇」に始まり(第99条の)「天皇」に終わる。 しかも99条の中身を見ると、やはり天皇が極めて重視しされているのが、改めてよく分かる。 憲法は統治する側のルールを定め、統治の在り方を規制し、その制限の範囲内で正統化する (つまり“制限”規範=“授権”規範である)のが、その“主たる”意義だ。 だから日本国憲法では、「国民」の憲法尊重擁護「義務」には言及していない。

“統治する側”こそ「憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」のだ。

その“統治する側”の真っ先(!)に「天皇又は(その全面的かつ半永久的な代行者である)摂政」が“名指し”されている。

これは、憲法が予想する「国家統治」において、天皇が最も重要な地位を占める事実を示す。

その一方、“三権の長”はどうか。

首相も衆参両院議長も最高裁長官も「国務大臣、国会議員、裁判官」と一括されているに過ぎない(つまり“名指し”無し)。

扱い方が全く異なる。

憲法を語る場合、こうした基礎的な事実を見逃してはならない。

なお同条には、“天皇又は摂政”及び“国務大臣…その他の公務員”とあるので、前者と後者が憲法上、別のカテゴリーに属しているのも、明らかだ。 念のため。

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