• 高森明勅

平成大嘗祭秘話

最終更新: 3月15日


平成大嘗祭秘話


天皇にとって最も大切な祭祀が一代に一度の大嘗祭。

皇位継承儀礼としても極めて重大な意味を持つ。 その大嘗祭を成り立たせるのが悠紀(ゆき)・主基(すき)両地方の国民が献じる新穀だ。 両地方は斎田点定の儀によって選ぶ。斎田点定の儀では、亀卜(きぼく)が行われる。アオウミガメの甲羅をウワミズザクラで灼(や)き、その亀裂を読み解く。これを古例、前例通りに行えるか。それが平成大嘗祭で難問だった。しかし、「先の大礼時の謹製者の後継人がおり、その亀甲を亀卜用に細工する技術を伝承していた」(鎌田純一氏)。


だが、亀卜は既に国内の何処でも行われていない。いかにしてそれが「伝承」されたのか。

参考になる逸話がある。 平成大嘗祭に臨時の出仕(しゅっし)として奉仕した1人が、こんな証言をしている。

「(斎田点定の)儀式が終わり、宮内庁庁舎に戻って事務処理をしていたときである。 掌典職に1本の電話があった。ちょうど斎田点定の儀が行われたことが、NHKの昼のニュースで流された直後である。

電話の主は、ある島で何十代も続く旧家の当主だと名乗った。


『私は代々、亀卜の法を伝えてきている家の者です。…昔、私の祖先が時の天皇さまから、 〈大嘗祭は一代一度の祭儀であり、どうしても何十年か間があいてしまうことがある。また、何かの事情で祭祀が途絶えることがあるかもしれない。そこで、お前の家は亀卜を代々伝え、何代先のことかわからないが、私の子孫に亀卜が伝わらない状況になった時には伝え戻してほしい〉

と頼まれたそうです。以来、当家では代々、亀卜の法を受け継いできました。そして、昭和天皇さまが崩御されてからは、必要とあらばいつでもはせ参じることができるように、アオウミガメの甲と家に伝わる祭儀のやり方を記した古文書を用意して、その時を待っておりました。それが今、斎田点定の儀が亀卜によって無事行われたというニュースを見て、(病気で伏せっている)父ともども感激しております。次は息子に、また代々伝えていきます』

私は、伝統をつないでいこうとする祖先の知恵に深く感動するとともに、このような家が日本にはいくつもあるであろうことを思った。皇室を戴くこの国に生まれた幸せ、誇りを心から感じる体験であった」(野村隆紹氏)


亀卜は元々、朝廷の神祇官(じんぎかん)に属する卜部(うらべ)が担当していた。その卜部は対馬、壱岐、伊豆の三国から徴用されている。「ある島で何十代も続く旧家の当主」 という電話の主は、或いはこれらの卜部のいずれかの末裔だろうか。

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