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産経新聞に載った直系·傍系を巡る不思議な言説

  • 執筆者の写真: 高森明勅
    高森明勅
  • 4 日前
  • 読了時間: 4分
産経新聞に載った直系·傍系を巡る不思議な言説

産経新聞12月24日付け「正論」欄に不思議な言説が載った(百地章氏執筆)。


直系の女性皇太子から即位された孝謙天皇が称徳天皇として重祚された時代に起こったいわゆる

「道鏡事件」についての通俗的理解と(文中に「僧、弓削道鏡」とあるが、弓削は俗人時代の

氏の名なので間違い)、江戸時代に傍系の閑院宮家から即位された光格天皇の事例を取り上げて

(但し先帝の養子となって即位したので形式上は直系)、以下のように文章を結ぶ。


「このように男系男子優先の皇位継承原則に従い、直系の女子ではなく、傍系でも男系男子を優先したからこそ、閑院宮家の流れを汲む現在の皇室が存在する。『愛子天皇』論者たちは、この事実と道鏡事件をどう見るのであろうか」と。


これは奇妙な立論だ。


敬宮殿下が将来、即位されたあかつきには道鏡事件のような出来事が再び繰り返されると、何の根拠もなく主張したいのか。もしそうであれば非礼·不敬この上ない妄想であり、暴論だ。

そうでなければ、千年以上も昔の奈良時代の事件を今さら取り上げる意図は何か、漠然とネガティブな印象操作をしたいのか。


ちなみに道鏡事件についての私見は、既に拙稿「道鏡事件とは何か」(初出『日本文化』24号、拓殖大学日本文化研究所。再録『国体文化』平成18年7月号、日本国体学会)や拙著『日本の10大天皇』(幻冬舎新書)で述べた。


道鏡皇胤説(『公卿補任』など)も視野に入れると、臣下による皇位継承は(旧宮家系を含めて)絶対不可という命題を歴史に刻み付けた事件だったと言える。

又、過去に傍系の天皇がおられた事実は誰も否定していないし(だから直系“優先”であって、

直系“絶対”とは主張していない)、その系統が現在の皇室に繋がるからと言って、現代の直系長子、令和の皇室で唯一の皇女でいらっしゃる敬宮殿下の位置付けを軽んじてよい根拠には勿論なり得ない。


光格天皇については以下のような事実も指摘されている(藤田覚氏『近世天皇論ー近世天皇研究の意義と課題』平成23年)。


「いわば傍系である。それ故に、どうも幕府からも軽く見られるところがあったようである。

そこで女性の先々代の天皇、後桜町院が心配し、一所懸命学問をするように指導した。

…こういった事情もあり、光格天皇は、天皇はこうあるべきだ、という理念を強くもつようになった」


傍系ゆえのハンディキャップや女性上皇の貢献など、こうした事実にも公平に目を向ける必要がある。そもそも、国内で高まる「愛子天皇」待望論は目の前の事実、現実を前提にしている。


国民から敬愛される天皇皇后両陛下にお子さまがいらっしゃり、その方こそが誰よりも両陛下のお気持ちやお考えをまっすぐに継承しておられることが明らかで、その上、両陛下も敬宮殿下ご本人も、ご婚姻後も皇室にとどまることを望んでおられることが、如実に拝察できる。


にも拘わらず「女性だから」というだけの理由で予め皇位継承のラインから除外される理不尽なルールは、安定的な皇位継承を阻害するだけでなく、普通の感覚を持ち合わせている国民にとっては、とても受け入れられない。


それを無理やり「皇室の伝統に照らして」という“架空の根拠”で言い訳する論法は、もはや説得力を持たない。「皇室の伝統」とは、側室制度を不可欠の前提とする男系継承ではなく、「国民と苦楽を共にする」精神の継承であることは、つとに上皇陛下が明言されている(平成17年)。


男系論者たちはその事実からいつまで目を背け続けるつもりなのか。

それにしても「次の天皇を秋篠宮皇嗣殿下と定めた皇室典範特例法と『男系男子』による皇位継承を定めた皇室典範によって、秋篠宮さまの後を継がれる天皇は9月に成年式を挙行された悠仁さまであることが決まっている」というのは、学者の文章として首をかしげる。


特例法は秋篠宮殿下を「皇嗣」とし、皇室典範に定める事項について「皇太子の例による」ことを規定するに過ぎない(第5条)。これは、具体的には特別事由による皇籍離脱の否認や摂政就任の際の優先待遇などを意味する。従って「次の天皇を秋篠宮皇嗣殿下と定めた皇室典範特例法」

との発言は、故意の虚偽でなければ、初歩的な誤解に基づく。


さらに皇室典範への言及については、いつまでも「『男系男子』による皇位継承」ルールを維持していては皇位継承の将来が閉ざされる。だから改正が不可欠との「皇室典範に関する有識者会議」

の報告書が、既に20年前に政府に提出されている。


まさにそこを改正しようという議論に対して、皇室典範でもう「決まっている」と言い張っても、何の反論にもなっていないことに気付かないのだろうか(成年式が皇位の継承に何の関係もないことは改めて言う迄もない)。


▼追記

今月のプレジデントオンライン

「高森明勅の皇室ウォッチ」は12月26日公開。 https://president.jp/articles/-/106667


 
 
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