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女性天皇、女系天皇は認めても愛子天皇は認めないという立場

  • 執筆者の写真: 高森明勅
    高森明勅
  • 2025年12月18日
  • 読了時間: 7分


女性天皇、女系天皇は認めても愛子天皇は認めないという立場

皇室典範の改正、皇位継承問題を巡り、これまでの議論では3つのハードルがある。

最初のハードルは「女性天皇」を認めるかどうか。


しかし、女性天皇それ自体を認めないという立場は、よほどエキセントリックな論者を除き、もはや殆どいないだろう。過去に多くの前例があり(皇統譜上、10代·8方の女性天皇がおられた )、各種世論調査でも国民の多くが賛成している(近くは読売新聞·令和7年12月14日=賛成69%/反対7%、毎日新聞·同年5月22日=賛成70%/反対4%)。これに反対する説得力のある理由がない。


男系固執派から偶像視されている故·安倍晋三氏や高市早苗首相も、女性天皇を認めていることは

よく知られているはずだ(『文藝春秋』令和4年12月号、「文藝春秋+」令和3年12月10日公開など)。


ところが、「女系天皇」になると反対論者が多くなる。

反対の唯一最大の理由は、「前例がない」「男系が伝統」、との言い分だ。


しかし「側室不在の男系男子限定」は、今の皇室典範で歴史上初めて(!)採用された“前例のない”非伝統的な欠陥ルールに過ぎない。

そもそも男系男子限定ルール自体、明治典範が初めてだった。

だが後者の場合は、古代以来の“伝統”である「側室制度+非嫡出子·非嫡系子孫にも皇位継承資格を認めるルール」とセットだった。そうでなければ、制度として持続可能性を期待できないからだ。


だから男系派の「前例」「伝統」論者は、せめて側室復活論とセットで主張しなければツジツマが合わない(それがいくら空想的でも)。


「形式的には明治初期まで国家体制を規定する法典であり続けた」(『日本史広辞典』)とされる「養老令」では、女性天皇のお子さま(「女帝の子」)はシナ男系主義とは異なり、男女の性別よりあくまで皇位を重んじる立場から、即位していない男性皇族の父親の血筋=男系ではなく、天皇でいらっしゃる母親の血筋=女系で親王·内親王に位置付けられた(「大宝令」でも同じ)。


しかも親王·内親王として即位の可能性が排除されない以上、前近代では女系継承が普通に認められていたことになる。

実例では、奈良時代の元明天皇(女帝)からその娘だった元正天皇(女帝の子)への皇位継承は、後代の男尊女卑的な先入観に基づく後付け解釈ではなく、同時代の公法上のルール(当時は大宝令)に従えば、即位しなかった父親の草壁皇子の血筋=男系ではなく、天皇でいらっしゃる母親の元明天皇の血筋=女系を根拠としたケースだったと捉えられる。


よく父方が天皇に繋がる血筋が男系で、母方の血筋が天皇に繋がるのは女系、という説明を見かける。シナのような男系社会なら同姓婚は禁止なので、皇族同士の結婚はあり得ず、そのようなシンプルな説明が成り立つ。


しかし、双系(双方)制の伝統を持つわが国では、かかるタブーは存在しない。

むしろ「継嗣令」の規定では女性皇族は男性皇族と結婚するルールだった。

明治典範でも皇族同士の結婚が標準的とされていた。

勿論、歴史上もそのような事例は少なくなかった。


その為、父方·母方の双方の血筋で天皇に繋がるケースが珍しくない。

その場合、男系なのか女系なのか。


新聞その他の取材を受けた時に、逆にこちらからそんな質問をすると、記者や編集者、ジャーナリスト達はほぼ答えられない。元正天皇も父母共に天皇に繋がる血筋だが、母親“だけ”が天皇なので「継嗣令」に従えば女系以外の何ものでもない。


従来、漠然と父方の血筋で天皇と繋がっていれば、母方の血筋でも天皇と繋がろうと、或いは母親本人が天皇であろうと、一切顧慮しないで大雑把に“男系”とカウントして来た。


だから「例外なく男系」などという、乱暴な決めつけが生まれる結果になった。


シナの通念を無批判に自明視した、何とも粗雑な理解だったと言う他ない。

それはともかく、何より上皇陛下ご自身が“皇室の伝統”について、男系継承ではなく「国民と苦楽を共にすること」と考えておられた事実が持つ意味は、重い(平成17年12月19日)。

この点は、天皇陛下や秋篠宮殿下も同じお考えと拝察できる。


長年にわたりお側近くにお仕えした羽毛田信吾·元宮内庁長官や渡邉允·元侍従長らが揃って、「女系」を認める発言を繰り返している事実(令和6年3月15日開催「毎日·世論フォーラム」、「読売新聞オンライン」令和7年5月19日公開記事。平成31年1月9日の読売新聞元論説主幹の小田尚氏への談話など)からも、そのことは補強できる。


しかも改めて言う迄もなく、憲法の「世襲」は男系·女系のいずれも含む皇統による継承を意味する、というのが政府見解であり、学界の通説だ。さすがに近年ではアタマの固かった人たちの間でも、脊髄反射的な女系への反発はいくらか緩和されている気配がある。


かくて皇室典範(第1条)から男系男子限定の規定を外せば、どうなるか。

”直系優先“の原則(同第2条)によって、令和の皇室で唯一の皇女でいらっしゃる敬宮殿下が皇位継承順位第1位の「皇太子」になられる。


…はずだが、それは認めないという最後のハードルがある。


将来における一般的な可能性として女性天皇も女系天皇も認めるが、天皇陛下→秋篠宮殿下→悠仁親王殿下という今の皇位継承順序を変更することは断じて認めない、という立場だ(但しリアルに考えて、秋篠宮殿下の即位はご年齢の関係から困難であることは、理解できているらしい)。


根拠薄弱ながら、この立場は意外と頑固で、俗耳にも入りやすいようだ。恐らく、悠仁殿下がお可哀そう、という上っ面な同情心を喚起する為だろう。


或いは、現行の欠陥ルールに基づくいびつな皇位継承順序を、親→子を優先する「世襲」の本来的な順序に正すことを、あたかも国民として許されざる、皇室への不敬·僭越な振る舞いと錯覚する向きもあるのかも知れない。


そこから遡って、皇位継承順序を変更することに繋がるので女系天皇も女性天皇も駄目、と感情的に反発する傾きも感じられる。しかし、これについては2点、見逃せないポイントがある。先ずは当事者のお気持ちを恭しく拝察し、それを最大限尊重申し上げること。


次に今の皇位継承ルールの構造的な欠陥と、その欠陥による皇室の深刻な危機から目を逸らさずに、直視すること。


1点目については、秋篠宮殿下ご本人に即位するお考えはなく、むしろ直系による皇位継承を望んでおられるとしか受け取りにくい事実がいくつもある(例えば帝王学·象徴学の不在など)。


一方、敬宮殿下ご本人は少なくともご結婚後も皇室に残るご覚悟がおありだし、天皇皇后両陛下もそれを強く望んでおられると拝察できる。これらについて、プレジデントオンラインの連載「高森明勅の皇室ウォッチ」で繰り返し取り上げているので、参照を乞う。


2点目については改めて述べる迄もない。構造的な欠陥を抱えるルールをそのまま維持すれば、

皇位継承の将来は暗澹たるものになるし、畏れ多いが悠仁殿下のご結婚すら大きな障害に直面せざるを得ない。


その欠陥の是正が20年も放置されて来た。

もうこれ以上、先延ばしする訳にはいかない。

それを是正すれば、結果的に敬宮殿下が皇太子になられるという順序だ。


天皇皇后両陛下のお子さまが現におられるのに、“女性だから”というだけの理由で予め皇位継承のラインから除外される、時代錯誤かつ理不尽で持続不可能な今のルールを、そのまま放置することこそが皇室に対して非礼であり、不敬であり、無責任であるとの非難を免れないだろう。


▼追記

①12月12日、衆院法制局の橘幸信局長が退任の意向との報道に接した(新潟日報)。

橘氏は政治的な圧力に屈することなく、養子縁組プランについて違憲の疑いを否定できないという立法の専門家として当たり前の見解を、全体会議の場で明言された。

皇室典範特例法の時も、官僚としての中立性を保ちながら、健全な法制度とすべくギリギリの努力を重ねられた。このタイミングでの退任は不安を禁じ得ない(参与として残るとの噂も)。


②西尾幹二先生の遺著『遠い日の幻影』(加藤康男氏·工藤美代子氏編、国書刊行会)を恵送戴いた。謹んで拝読したい。過去に先生から戴いた年賀状は、それ自体が絶品のエッセイだった。


③今年も福島県のS氏からお米や旬の野菜セットなどを送って下さった。

T先生から長野の林檎、М宮司から黒豆や栗·昆布巻などを戴いた。

長年にわたり変わらぬご厚情に感謝申し上げる。

更に今年、懐かしく再会を果たしたH兄からも、静岡の蜜柑を送って貰った。有難う。


④今月のプレジデントオンライン「高森明勅の皇室ウォッチは」12月26日公開。

⑤振り返ると「高森明勅の皇室ウォッチ」はプレジデントオンライン社会ジャンルの中で、3月·5月·9月·11月のBEST記事に選ばれた。編集部からも拙稿がBEST記事に選ばれる割合が高いとの連絡を貰っている。


どれも各月3本から5本選ばれるBEST記事の中でも1位。普通は毎月1本のペースで連載しているが、3月は2本公開してどちらもBEST記事(1位と5位)だった。


社会ジャンルは、大谷翔平選手などスポーツやエンターテイメントの話題、健康ネタやお金をめぐるアレコレなど、関心が集まる記事が多い。その中でも、多くの人が拙稿を読んでくれているようだ。


私が取り上げるテーマへの関心の高さと私の主張への共感の広さを示す事実ならば有難い。


▼高森明勅公式サイト

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