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  • 執筆者の写真高森明勅

皇室典範の「立后」


皇室典範の「立后」

皇室典範の「立后」


皇室典範の条文を巡る勉強会を続けている。

メンバーは政治家、法律家、更に法案作成のプロフェッショナルにも参加して貰っている。

先日の会では「立后(りっこう)」という語が問題になった。

第10条に以下のようにある。


「立后及び皇族男子の婚姻(こんいん)は、皇室会議の議を経ることを要する」


天皇・男性皇族のご婚姻に当たっては、必ず(皇族の代表と三権の長らによって構成される)皇室会議の同意を必要とすることを定めている。

これは、「婚姻は両性の合意のみに基いて成立」することを規定する、憲法第24条第1項の例外をなす。何故それが可能かは、憲法それ自体が「象徴天皇」の「世襲」制度を定めているからだ。

ご婚姻の相手が皇族でない場合もしばしば予想され、その際はご婚姻によって新しく皇族の身分を取得されることになる。

ならば、こうした手続きは(皇室と国民の区別を忽〔ゆるが〕せにせず)皇室の尊厳を保持する上で、欠かせないだろう。


一方、女性皇族は、典範の現在のルールでは、ご婚姻と共に皇族の身分を離れられる。

その為、皇室会議の関与は一切、無い。

この規定が、皇室の“聖域性”に配慮したものであることが分かる(女性皇族がご婚姻後も皇族の身分に留まられる制度に改める場合は、当然ながらそのご婚姻にも皇室会議の同意が必要となる)。


ところで、この条文には「立后」という普段は余り見かけない言葉が出てくる。

これは、元々、天皇にキサキが複数いらっしゃること(つまり側室の存在)を前提とし、側室とは区別して(キサキの中の最高位の)正妻たる「皇后」に冊立(さくりつ、勅命によって正式に定める)することを意味する言葉だろう。

明治の典範では、非嫡出による継承を認め、側室の存在を予想していた(但し大正天皇以来、側室は不在)。


しかし、今の典範では非嫡出の継承を否認し、複数のキサキも認めていない。

皇太子の正妻であり、たったお1人のキサキであられる皇太子妃は、皇太子が即位されると同時に何らの儀式も手続きもなく、皇后になられる(前近代の立后に伴う儀式の1つの典型は、貞観〔じょうがん〕の『儀式』に収める「立皇后儀」だろう)。


明治典範のように、殊更(ことさら)に「詔書(しょうしょ)」も必要としない。

ならば、上記の条文は「天皇及び皇族男子の婚姻は…」とあっても、特に支障は無いはずだ。

現に、今の典範制定の際の政府の認識も以下の通りだった。


「今回の典範において予想しておりまする立后と申しますのは…特殊な古代の用例によったのではなくて、近ごろの考え方を本(もと)としておりまするが故に…天皇の御婚姻ということと同じ意味に了解しております」(昭和21年12月11日、第91回帝国議会衆議院皇室典範委員会での金森徳次郎国務大臣の答弁)


「立后」というのは、それなりに由緒のある言葉ながら、側室を認めていない現典範中の語としては、むしろ相応(ふさわ)しくないとも言い得るだろう。

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