2月10日の衆院予算委員会で山尾志桜里議員が菅内閣官房長官に皇太子と皇嗣の“違い”を尋ねた時、菅氏は一瞬、ポカンとして席を立てなかった。皇太子と皇嗣の違いというごく初歩的な知識が、政府内で共有されていない事実を露呈した場面だった。
菅氏は官僚のメモを頼りに「天皇の子であるかどうかの違い」といった答え方をしたが、勿論不十分だ。
その時点で、皇位継承順位が“第1位”の皇族が「皇嗣」。その皇嗣が「皇子」、つまり天皇のお子様(ルール上、原則として長子)の場合だけ、「皇太子」という特別の称号が用いられる。
つまり、皇太子も皇嗣であることには変わりはない一方、その皇子という位置付けから、特別の事故でも無い限り、次の天皇となられることが“確定”している。ところが、「皇太子でない皇嗣」の場合だと、必ずしもそれは確定していない。
例えば、昭和元年から上皇陛下がお生まれになった昭和8年まで、昭和天皇のすぐ下の弟宮である秩父宮が皇嗣だった。しかし、上皇陛下がお生まれになった瞬間に、上皇陛下が皇太子になられ、秩父宮は継承順位が第2位に変更になった。
なので、秩父宮はもはや皇嗣ではなくなられた。皇太子ではない皇嗣というのは、そういう“非確定的”なお立場だ。だから皇室典範では、皇太子は他の皇族と違い、皇族の身分から離れない決まりになっているのに、皇嗣にそのようなルールは無かった(だから特例法第5条で、皇太子に準じると“改めて”規定する必要があった)。
皇太子と「皇太子でない皇嗣」では、明確にお立場が異なる。従って、皇位の安定継承への道を探る場合、地位が確定した皇太子がいらっしゃらない以上、現在の皇位継承順位を固定的に考える必要はない。