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懸命な旧宮家養子縁組プラン弁護論に説得力はあるか?

  • 執筆者の写真: 高森明勅
    高森明勅
  • 4月2日
  • 読了時間: 6分

懸命な旧宮家養子縁組プラン弁護論に説得力はあるか

日本会議の機関誌『日本の息吹』4月号に、国会の全党派による全体会議で検討対象とされている旧宮家系子孫男性の養子縁組プランについて、懸命な弁護論が掲載されている(新田均氏「占領下における皇籍離脱と養子案よる皇籍復帰について」※タイトルに皇籍“復帰”とあるが正しくは皇籍“取得”)。



しかし、残念ながら説得力がない。


弁護その1。

皇位継承の男系限定は「女性差別」だと言われるが、そうではない。

→「現在、世界の人口は約81億人強だが、男性はその半分強、女性は半分弱である。その40億強の男性の中で、日本の天皇になれる伸ばし僅かに3人、皇統に属する秋篠宮殿下、悠仁殿下、常陸宮殿下だけだ。皇統に属さないその他の男性にとって、男系継承は特権でも何でもない。それどころか、男性はたとえ日本人であっても、皇族になれない。天皇の父になれず、摂政にもなれない。


ところが、全女性は、国籍に関係なく、結婚によって皇族になれる。天皇の母になれ、場合によっては摂政にもなれる。この事実に照らせば、皇位の男系継承によって差別され、排除されているのは男性の方である。女性はむしろ尊重され、歓迎されている。そして、皇位の男系継承は一般女性の社会的地位と何の関係もない」


天皇皇后両陛下にお子さまがおられる。しかし、単に“女性だから”というだけ(!)の理由で皇位継承のラインから除外される。これが女性差別でなくて一体何なのか。


内親王·女王は全て皇位継承のラインから除外されている。なので、国民男性とのご結婚と共に皇族の身分を失う。その結果、「男性は、たとえ日本人であっても…」という事態を招いている。

「差別され、排除されているのはむしろ男性の方である」というのは、その原因と結果の関係を完全に見誤った、逆立ちした理解以外の何ものでもない。


だから、“原因”である皇位の安定的な継承を阻害している「女性差別」を解消すれば、“結果”としてここで言われている男性への“差別(?)”や“排除(?)”なども、直ちに雲散霧消する。

皇位継承における女性皇族の排除は、一般女性の社会的地位の反映であり、又その排除の事実が一般女性の社会的地位に暗い影を落とす。


弁護その2。

旧宮家プランは憲法が禁じている「門地による差別」に当たらない。

→「これについては、すでに内閣法制局の見解が示されている。それは、憲法が『世襲』と規定している天皇、皇族(※原文のママ)の継承は、『平等原則』の例外であり、その皇位継承権の範囲は法律に委ねられているため、特例法を制定して養子の範囲を旧宮家に限っても憲法違反とはならない、というものである」憲法の「国民平等」の原則の例外は、皇統譜に登録される皇室の方々(天皇·上皇及びその他の皇族)に限られる。


一方、旧宮家系子孫男性は勿論、戸籍に登録された国民だ。よって、「国民平等」原則の例外にはなり得ない。

当たり前ながら、皇位継承資格を持つ皇族の範囲は法律(皇室典範)マターであっても、国会が違憲の法律を作ることは許されない。

そもそも、憲法が要請する「世襲」には男性·女性、男系·女系が全て含まれるというのが、これまでの政府見解であり学界の通説だ。よって、世襲要請に応える為には、まず皇位継承の不安定化を招いている皇室典範の「男系男子」の縛りを解除することが先決だ。それに手を着けないで、「国民平等」原則を損なう制度改正に踏み出すのは、憲法違反を免れない。


弁護その3。

直系優先の原則なんて存在しない。

→「皇室系図を見れば一目瞭然だが、直系原則は早くも第13代成務天皇から第14代仲哀天皇への叔父から甥への継承で崩れてしまい、今上陛下のまで126代の内、55代が傍系継承なので、とても原則とは言えない」


“原則”の意味が分かっていないようだ。原則とは、特別な場合は別として、一般に適用されるべきルールだ。だから、原則に当てはまらないケースがあることと、その原則そのものが存在しないこととは、直結しない。明治の皇室典範も、現在の皇室典範も共に、皇位継承順序において「直系優先」ルールを堅持している。皇族の身分(親王·内親王、王·女王)自体が天皇からの血縁の近さ(直系原則)で決められる(これは古代の大宝·養老律令でも同じ)。


そもそも、「世襲」自体が“親から子”への直系継承を軸とした概念だ。なお念の為に付言すれば、「皇室系図」の古い時代の部分は、どの辺りから実態を正確に反映しているかについて、丁寧な吟味を必要とする(記紀に描かれた成務天皇や仲哀天皇の頃の系譜をそのまま史実と見る歴史学者はいないだろう)。


弁護その4。

側室制度が無くても男系継承は維持できる。

→「かつて側室制度が必要だったのは、乳幼児の死亡率が高かったためで、現代医学の下では必要ない。事実、初代の神武天皇から今上陛下まで…側室を除いて、正妻お一人からだけでも168人の男子が誕生している。…歴代天皇の数を上回る男子が誕生しているのだから、あと3つほどの宮家でもあれば、現代医学では十分だろう」


しかし、目の前の晩婚化·少子化の厳しい現実から目を逸らして過去の話を持ち出しても、全く無意味だ。これで一発アウト。


それでも、この現実逃避的な弁護論を敢えて吟味すると、どうか。そもそも「あと3つほどの宮家でもあれば」と言っても、その宮家をどのようにして確保するつもりか。


旧宮家関係者からは、これまで(無責任な匿名の伝聞情報などは別にして)後ろ向きなコメントしか出されていない。故·安倍晋三元首相すら「該当者はいない」と語っていた。

旧宮家系の内情をある程度は知っていると思われる竹田恒泰氏は、本人が物心つく前の「赤子のうちに縁組を行うこと」のが「ベスト」と言っている。これは常識的に考えると、ほとんど「赤子」しか養子縁組を受け入れる該当者が見付からないことを意味しているのではないか。


過去の4世襲親王家(伏見宮·有栖川宮·閑院宮·桂宮の諸家)の実例を見ると、正妻の半数以上(54.3%)は男子に恵まれていない。現に側室が認められた時代でも、4宮家の内、伏見宮家以外は全て廃絶している。


天皇についても、史実性に配慮して調べると3分の1以上(35.4%)は、そもそも男子が生まれていなかった。何代にもわたって正妻に男子が不在だった時期も複数ある。単純に、正妻から生まれた男子の数だけを数えても、実情は見えて来ない。


しかも現代は、先に述べた通り、そうした時代と比べて、遥かに困難な状況にある。


弁護その5。

旧宮家系子孫は血筋が離れすぎていると言うが、占領下の理不尽な皇籍離脱さえなければ、そんな議論は出てこなかった。

→「旧皇族は敗戦まで皇位継承権を保持していた。敗戦後もこの方々が皇族に留まって居たら、血筋が遠すぎるなどという議論は起こらない」


明治の皇室典範で歴史上初めて、血筋が遠くても皇族の身分を保持し続ける「永世皇族制」が、それを疑問視する声もある中で、採用された。だが、早くから見直しの動きがあった。


血縁が遠い皇族の数が増え過ぎると、財政上の問題だけでなく、失礼ながら品位や自覚の点で、むしろ皇室の尊厳を損ないかねないケースが現れるからだ(実際にそうした事態も起きている)。

その結果、皇室典範·増補第1条では男性皇族(王)の臣籍降下について規定した。同第6条では一旦、臣籍降下した者は再び皇籍に戻ることを認めない(!)、とも規定した(明治40年)。


更に「皇族の降下に関する準則」によって、血筋が離れた皇族が臣籍降下するための基準が、定められた(大正9年)。


その基準に照らすと、占領行政に関わりなく、現在、養子縁組の対象とされている旧宮家系子孫男性らは、(伏見宮邦家親王から5世以上も血縁が離れているので)既に親の代から皇籍離脱を余儀なくされる血筋の遠さだ。


以上。


▼追記「女性自身」4月1日発売号の記事はYahoo!でも配信された。https://news.yahoo.co.jp/articles/fb031c9ca2539459a4276f10457d9acc5ba28fb8


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