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  • 執筆者の写真高森明勅

私の塾で何故エンターテイメントを語るのか?

更新日:2月26日


私の塾で何故エンターテイメントを語るのか?

12月16日、年内最後の高森稽古照今塾。

この塾は元々「爆笑目からウロコ塾」又は「熱血目からウロコ塾」という名前を考えていた。

だが残念ながら、それらは結局、採用を見送ることになった。


主に20代·30代の若い社会人を対象とし、今年で第11期目になっている(第1期から毎年受講してくれている熱心な塾生が何人もいる)。


今期のテキストは拙著『はじめて読む「日本の神話」』(展転社)だ。サブテキストは中村啓信氏訳注『新版 古事記』(角川ソフィア文庫)。初心者にストーリーの流れを頭に入れて貰う為の現代語訳は、池澤夏樹氏のもの(河出書房新社)を使っている。


月に一回の開催で、塾の後は必ず少人数の懇親会を行っている。その懇親会の席上、女性の塾生(彼女は今期の塾のサブリーダー)からこんな質問を受けた。


「塾の中で、先生がしょっちゅうエンターテイメントの話題を取り上げられるのは何故ですか?」と。


私は本題に入る前に、皇位継承問題の現況や様々な時事問題の他に、エンターテイメント系の話をなるべく取り上げるように心がけている。質問した女性は勤務先の会社で最近、エンターテイメント関連の部署に移ったので、気になったようだ。


塾生諸君の職種は様々。向上心が強く真面目な若者たちだ。しかし、エンターテイメント方面への関心はいささか薄い印象がある。藤井聡太八冠の偉業や、RIZNの鈴木千裕選手がアゼルバイジャンで大方の予想を裏切って、見事にフェザー級のベルトを獲得した件などにも、どれほど関心があるか。


この日は、上映中の「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら」(成田洋一監督)の話からNHKの朝ドラ「ブギウギ」に繋がり(どちらも俳優の水上恒司君がヒロインの恋人役で出演、わが家にはテレビが無いので「ブギウギ」はU-NEXTで視聴)、前日、会食した作詞家の森由里子さん

(「ドラゴンボール」の主題歌などを作詞)から戴いたCD「アマテラス」の一部をプレイヤーで流したり、先頃公開されたNetflixオリジナル作品「PRUTO」の話題に絡んで、原作の浦沢直樹氏の作品の更に元になった手塚治虫氏の『鉄腕アトム⑬地上最大のロボットの巻』(手塚治虫漫画全集、講談社)も、会場に持ち込んでいた。


エンターテイメントを素材にすると、幅広く身近な入口から、意外と深く本質的なテーマにも、余り敷居が高い感じがなく近付ける、という利点がある。それに、私自身、一流のエンターテイナーからは学ぶところが多いと考えている。


例えば私が講演を行う場合、一種のライブコンサートのようなつもりで臨んでいる気分がある。

勿論、歌をうたったり、楽器を演奏したり、踊ったりはしない。


だが、会場を盛り上げる呼吸とか、間の取り方、身体を動かす流れ、何より情念など、勿論まだまだ学び足りないが、多いに参考になる。「笑い」は勿論、私の講義や講演には欠かせない最も大切な要素だ。塾生たちの人生をより豊かにする為に、エンターテイメント自体の魅力や楽しさも、及ばずながら伝えたい気持ちもある。


私自身が趣味も特技もない、無芸無才の人間だからこそ、意識して好奇心旺盛であり続けたいという側面もあるかも知れない。


以前、塾と別枠で吾峠呼世晴氏『鬼滅の刃』全23巻を読了したメンバーだけ集まって、「語る会」を開いたこともあった。真剣に楽しく、それが私の流儀だ。


私の教え子たちを中心に、高森流の日本神話への理解をベースにした「神話劇」も作られ、既に何回か上演して好評を博しているようだ。多芸多才で、チャレンジ精神に富む若者たちには、尊敬あるのみ。

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