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  • 執筆者の写真高森明勅

「女性天皇」排除を合憲として来た憲法学通説の“思考停止”


「女性天皇」排除を合憲として来た憲法学通説の“思考停止”

皇室典範の現在のルールでは「女性天皇」の可能性を一切排除している(第1条)。


これについて、これまで憲法第14条が禁止する“性別による差別”に該当するのではないか、という疑問が提出されて来た。この疑問に対する政府の説明は以下の通り。


「第14条(法の下の平等)と第2条(皇位の世襲)との関係は、第2条は第14条の特別規定というふうにわれわれは考えるものでございまして、憲法に違反するものとは考えないのであります」(昭和39年3月13日、衆院内閣委員会、宇佐美毅宮内庁長官の答弁)


憲法学の通説も以下の通り。


「日本国憲法は天皇制を存置するためには必要であると考えて、世襲制を規定したものであろう。そういう世襲制を憲法が認めている以上、女子の天皇即位を否定して男系男子主義を採用する(皇室典範1条)ことも、憲法14条の男女平等の原則の例外として許されることになる」(芦部信喜氏著·高橋和之氏補訂『憲法 第4版』)


「そもそも憲法が平等原則の例外として世襲を認めている以上、ここでの性差別を違憲とまではいえないであろう」(高橋和之氏ほか『憲法Ⅰ【第4版】』)


「日本国憲法の作りだした政治体制は、平等な個人の創出を貫徹せず、世襲の天皇制(憲法2条)という身分制の『飛び地』を残した。残したことの是非はともかく、現に憲法がそのような決断を下した以上、『飛び地』の中に人類普遍の人権が認められず、その身分に即した特権と義務のみがあるのも当然である。…この考え方からすれば、身分制秩序の『飛び地』の中に外側の男女平等の原則を持ち込んで、女帝が認められない(皇室典範1条)のは憲法違反だと主張するのは、

論理の錯誤である」(長谷部恭男氏『憲法 第5版』)


「日本国憲法は、徹底した平等の理念に立ちながらも、古くからの天皇という名称を持つ制度を存置したことにともない、その例外として世襲制を認めた…世襲の天皇制自体に一般的な平等原則を持ち出すことには無理がある」(佐藤幸治氏『日本国憲法論』)


なお、上記の「例外」扱いが許されるのは、当然ながら皇統譜に登録された皇室の方々(天皇·上皇·皇族)に限る。私は勿論、憲法学については全くの門外漢に過ぎない。


しかし、これまで些か皇室研究に携わって来た立場から見ると、ここで紹介した見解はいずれも極めて粗雑と言う他ない。


憲法第2条は確かに、第14条の一般規定に対する“例外”規定としての性格を持つ(それは全体として、第1章と第3章との関係についても、ほぼ当てはまるだろう)。

しかし、その“例外扱い”が許されるのは何故か。


あくまでも、憲法自体が存置した「象徴」天皇の「世襲」制(第1·2条)を維持する為に他ならない。従って、もしそれを維持する為に女性天皇の排除、「男系男子主義」が“必要不可欠”ならば、第14条の男女平等よりも、そちらが優先されるのは、憲法の仕組みとして当然だ。


しかし、憲法学の通説はここで思考停止しているが、果たしてそのような仮定は成り立つのか、どうか。そこを吟味する手続きが欠かせない。


普通に考えると誰でも分かるように、一夫一婦制の下では男系男子主義、女性天皇の排除は、“世襲制”の維持にとって必要不可欠どころか、むしろ阻害要因(!)でしかない。ならば、世襲制を根拠としてそれらの合憲性を主張することは「論理の錯誤」だ。


しかも憲法は、天皇が「国民統合の象徴」であるべきことを求めている。天皇が国民統合の象徴であられる為には、国民における“普遍的な価値”を体現される必要があるはずだ。


女性天皇の排除、男系男子主義は、国民の普遍的な価値の観点からも、憲法の要請に背く。


以上のようであれば、皇位継承資格について「男女平等」の例外扱いをする客観的な根拠は無いと言わねばならない。逆に、その例外扱いこそが、世襲制の維持を至難にしており、国民統合の象徴としての地位にも影を落としかねない。


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