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  • 執筆者の写真高森明勅

皇室の名誉・尊厳を守る法的保護が事実上、存在しない異常さ


皇室の名誉・尊厳を守る法的保護が事実上、存在しない異常さ|神道学者、皇室、天皇研究者 高森明勅の公式ブログ

これまでも指摘して来た件ながら、改めて言及しておく。


皇室の方々の名誉・尊厳を守る法律上の保護が、建前はともかく、事実において存在していない。最低限、こうした異常な状態は速やかに解消されるべきだ。


《皇族は事実上、告訴できない》


国民には、刑法に名誉毀損及び侮辱を罰する規定がある(第230条・第231条)。

ところが、皇室については以下の通り(同第232条)。天皇・皇后・皇嗣などの場合は、内閣総理大臣が代わって告訴する。その他の皇族は国民と同様に自ら告訴する。


しかし、皇族がご自身で直接、国民を訴えるというのは、果たしていかがか。この点について、政府の見解は次の通り。


「皇族という御身分の方が一般の国民を相手どって原告・被告で争われるというようなことは、これは事実問題としては考えさせられる点が非常に多いですから、まああまりないと思います」

(昭和38年3月29日、衆院内閣委員会での瓜生順良宮内庁次長の答弁)


これは、皇族は事実上、“告訴できない”と言っているに等しいだろう。


《天皇などの告訴権は代行されず》


では、天皇などの場合はどうか。

内閣総理大臣が天皇などに代わって、適切に告訴権を行使しているのか、どうか。

しかし、私が首相官邸及び宮内庁に過去の事例を確認した限り、実際に内閣総理大臣が告訴権を代行した気配は無い。両者共、1例も具体的に答えることができなかった。


「中央公論」昭和35年12月号に、紹介するのも憚られるが、当時の皇太子・同妃(上皇・上皇后両陛下)の首が切り落とされる場面を描いた深沢七郎氏の「風流夢譚」が掲載された時は、さすがに政府内部で告訴を検討する声が出たようだが、結局、告訴には至っていない。


以上から、刑法の名誉毀損・侮辱罪は皇室の方々について、現実的には全く機能しないことが分かる。つまり、皇室の尊厳・名誉を守る法的な保護は無いということだ。


《「象徴侮辱罪」の可能性》


私は勿論、少しでも皇室を貶める言説があれば、ことごとく強権的に取り締まれ、と主張しているのでは“ない”。そんなことをすれば、むしろ皇室への素直な敬愛の気持ちが損なわれるし、何より皇室の方々が悲しまれるだろう。言論・表現の自由は、もとより最大限、尊重されるべきだ。


そうではなくて、ほとんどあらゆる自由と権利が制約された状態にある皇室の方々に対し、一部の心ないメディアやネット上の「匿名の群れ」によって、確かな事実に基づかない一方的なバッシングが繰り返されている状況の中で、法的保護が実態としては皆無の状態をそのまま放置することが、果たして人道上も許されるのかを問うているのだ。


リベラルな立場の憲法学者でさえ、かなり早い時点で、次のような指摘をされていた。


「象徴としての天皇の特異な地位が認められる以上…たとえば『象徴侮辱罪』といった規定を設けても…法律論的には違憲ということはできないであろう」(小林直樹氏『日本における憲法動態の分析』昭和38年)と。


追記 

10月4日、幻冬舎から連絡があり、拙著『「女性天皇」の成立』が早速、増刷されるとのこと。広く読まれて欲しい。

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