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執筆者の写真高森明勅

魂の行方

更新日:2021年1月20日

魂の行方

歌人で國學院大學名誉教授の岡野弘彦氏。昭和天皇の作歌のご相談に預かるなど、和歌を通じて皇室とのご縁も浅くない。民俗学者の折口信夫(おりくちしのぶ)の家に同居して指導を受け、その死を看取った。


折口の学問上の“遺言(ゆいごん)”と言うべき論文「民族史観における他界観念」(昭和27年)の口述筆記に当たったのも、岡野氏だった。


その岡野氏が、同論文について、以下のように述べておられた。


「あれ(同論文)は柳田(国男)先生からの問いかけに対する、返事だったのかもしれない、と思うんです。戦後の昭和24年の春、折口は柳田先生を訪ねて、一緒に桜の花を見て、また民俗学研究所に戻った。


そこで柳田先生は、『われわれは戦争中の若者たちが桜の花の散るように死に急いで、自分の命を死地に捨てるのを見てきた。こんなにして若者が命を絶つことをいさぎよしとし、みずから死ぬことを美しいと考える民族は世界中にないのじゃないだろうか。折口君はどう思います』とおっしゃった。


つまり、そういう思いを持つ民族はあったとしても早くほろびて、海に囲まれた日本だけに残っているのではないか、という疑問を折口に投げかけた。折口はそのとき何も答えなかったのです。二人とも暗い顔をして沈んで考えていたことがありました。その時、何も答えなかった折口の柳田先生への一つの答えが『民族史観における他界観念』だと思うんです」(井上ひさし・小森陽一編著『座談会 昭和文学史』第2巻、平成15年)と。


この発言に触れて、早速、書斎の高い棚の奥に埃(ほこり)を被(かぶ)っていた『折口信夫全集』(中公文庫版、全31巻・別巻1巻)から同論文を探し出したのは言う迄もない。


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