神道の女性観
前に仏教の女性観を取り上げた。
田上太秀氏の研究をもとに、大乗経典などに見えている女性への差別意識について紹介した。
では、日本の民族宗教とされる神道(しんとう)の女性観はどうか。
神道の場合は、仏教のような創唱宗教ではない。
元々、自然宗教だ。
だから、特定の経典は無い。
なので、神話や祭祀・神社などにおける具体的な女性の位置付けから、それを探る他ない。
まず、神話に登場する神々の中で、最高神とされるのは天照大神(あまてらすおおみかみ)。言う迄もなく女性神だ。
その他にも、神話での女性神の活躍は目覚ましい。
日本の国土を生んだイザナキ・イザナミ2神の物語で、女性から先に求婚してはいけないかのような場面が、例外的に描かれているのは、シナの文献・思想の影響と見られている(『洞玄子』など)。
むしろ、女性から声を掛ける形の方が原型に近かった。
日本神話においては、女性が差別されるどころか、尊重されていた。
次に祭祀についても、最高神・天照大神を宮殿の外で祀るに当たり、最初にそれに奉仕したのは、崇神(すじん)天皇の皇女・豊鍬入姫命(とよすきいりびめのみこと)だったと伝える。
伊勢の神宮が現在の場所に祀(まつ)られることになったのも、垂仁(すいにん)天皇の皇女・倭姫命(やまとひめのみこと)が大神の神意を受けた結果だった。
その神宮の奉仕者の最高の地位にあったは、斎王(いつきのみこ、さいおう)と呼ばれた内親王・女王だった。
最高神が女性で、それを祀る側の最高の地位にあるのも女性だった(現在の神宮の神職の最高の地位にあられるのは、天皇陛下の妹に当たられる祭主〔さいしゅ〕の黒田清子〔さやこ〕様)。
天皇の祭祀で最も重大な大嘗祭(だいじょうさい)や、恒例祭祀で最も重い意味を持つ新嘗祭(にいなめさい)でも、天皇のお側近くでお手伝い申し上げるのは釆女(うねめ)という女性。
現在の宮中祭祀でも、最も神聖な場所でのご奉仕は、内掌典(ないしょうてん)と呼ばれる女性が務めておられる。等々。
先に紹介した仏教の女性観とは、全く異なる。どころか、ほとんど正反対とさえ言えるだろう。女性は神聖視され、大切な独自の役割を担う存在とされているのだ(但し、現在の神社界が本来の神道の女性観にのっとった状態かどうか、私は詳しく知らない)。
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