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執筆者の写真高森明勅

皇位継承有識者会議のメンバーが古代日本の「双系」制に言及


皇位の安定継承を目指す有識者会議。 その第3回会合(4月21日)では歴史学者らがヒアリング対象とされた。 この回でも、会議メンバーによるヒアリング対象者への質問の仕方が、興味深い。


例えば、日本中世史が専門で国際日本文化研究センター名誉教授の今谷明氏への質問。


「(今谷氏の“男系の伝統”という発言に対し)最近の歴史学の研究では、古代においては(男系だけでなく女系も血統として意味を持ち得る)双系であったという研究者もいるようであり、ある時点から、律令制ができる過程の中で男系になっていったとも言われている。 歴史の伝統の重みを考えたときに、この双系というものを、どのように理解すればよいか」


これに対し、今谷氏の答えは残念ながら要領を得ない。


「(女性天皇が多く即位された)奈良時代以前に戻すのか、あるいは平安以後の伝統を重んじるか、そこの考え方だろうと思うが、私はそこまで準備はしていない」と。


恐らく、「双系(方)」という概念自体が、きちんと整理できていないのではあるまいか。 皇位の安定継承を巡る議論に、この概念を早い段階から導入したのは、多分、私かも知れない(『正論』平成16年7月号ほか)。


しかし、歴史学界では勿論、それ以前からしばしば取り上げられている概念だ(私の造語と勘違いして非難し、自らの無知ぶりを晒した人もいたが)。


「古代史学界では、すでに今回の高森(明勅)氏の問題提起の数年前から、清成弘和氏や春名宏昭氏など…複数の研究者によつて支持されてきてをり…この前提には、文化人類学の家族・親族論を援用しつつ、古代日本の双系的(双方的)親族組織論を唱へた吉田孝氏をはじめ、明石一紀氏・義江明子氏などの研究の展開により、『双方制』は現段階で通説的な位置を占めるに至つてゐることが背景にある」(藤田大誠氏「最近の『女帝』論議に関する覚書」、神社本庁教学研究所『皇室法に関する研究資料』所収)


「日本古代史学では…双系的特質を強調する学説が主流を占めるようになっている」「わが国は当初から父系(男系)社会ではなく、東アジアの中で国家を形成していく過程で父系から双系へと転換したものである。

そして、その転換も徹底したものではなく、本来の双系社会の特質を残した社会であった」(田中良之氏『骨が語る古代の家族ー親族と社会』)等々。


会議メンバーに歴史学者はいないはず。 だが、この辺りの研究まで視野に入れているとは、心強い。 この回に、日本古代史が専門で帝京大学名誉教授の義江明子氏などが招かれれば、より有益だったはずだ。

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