元自衛隊海将の奇妙な改憲論
自衛隊の海将(旧軍の海軍中将に当たる)だった人物がおかしな改憲論を唱えている。
「日本は既に、(平成15年に成立した“武力攻撃事態対処法”によって)国を守るために『戦える国』になっています。そのことをきちんと踏まえて議論しないから、『9条2項を削除するのか、しないのか』などと議論がブレてしまう。そうではなく、憲法への自衛隊明記によって、自衛隊について義務教育でも教えることになり、国民が何も知らないということがなくなるのです。また、国家に殉ずることを宣誓しているのに、自衛官には恩給制度もない。こういった、自衛隊の本質的な地位の向上なくしては、日本は護れないのです。だから安倍総理は、『自衛隊員が誇りを持って任務を全うできる環境を整える』と改憲の意味を解(ママ)いているのです」(伊藤俊幸氏)
いささか驚く。
憲法改正などしなくても、「日本は既に、国を守るために『戦える国』になってい」る。だから、自衛隊を“戦力”未満の非「軍隊」に押しとどめている「9条2項を削除するのか、しないのか」なんて議論は無用。自衛隊は今のまま非「軍隊」で良い。自衛隊が“一人前”の軍隊になれるかどうかなんて議論に「ブレて」はいけない。
「そうではなく」自衛隊について「義務教育でも教える」ことと「恩給制度」を整えることが大切。自衛隊の「地位の向上」なくしては「日本は護れない」、との主張。
勿論、自衛官の為の恩給制度も、義務教育で自衛隊が適切に取り上げられることも、どちらも重要だ。しかし、それらは特に憲法改正を必要としない。今の憲法のままでも十分に対応できる。
と言うか、義務教育での扱いについては、“既に”文部科学省が定めた現在(!)の学習指導要領の下でも、「自衛隊が我が国の平和と安全を守っていること」(小学校学習指導要領〔平成29年告示〕解説、第3章各学年の目標及び内容)「自衛隊が我が国の防衛や国際社会の平和と安全の維持のために果たしている役割」(中学校学習指導要領〔平成29年告示〕解説、第2章社会科の目標及び内容)について、きちんと教えることになっている。だから、それは憲法改正ではなく、単に教育の現場をどう改善するか、という課題だ(もとよりこれ自体、難題だが)。
恩給についても、法整備(国家公務員共済組合法の改正又は新たな立法化など)で対応できる話だろう。要するに上記の意見は、自衛隊はいつまでも非「軍隊」のままで良いから、わざわざ憲法を改正する必要の無い理由で、とにかく憲法を改正しよう―という奇妙な改憲論。それを自衛隊の元海将が声高に唱えている。不思議な光景だ。
自衛隊の最高指揮官である安倍首相は、次のように明言している。
「我が国の防衛には米軍の力を絶対的に必要としている」(平成25日年4月23日、参院予算委員会)と。これは、我が国のアメリカへの「絶対的」な依存を、正直に表明したもの。
「他国に安全保障の根幹を委ねた国家の欠陥」(田久保忠衛氏)を改めて満天下に晒した発言だった。こうした「絶対的」な依存関係があれば、アメリカに「絶対的に」従属せざるを得ないのは自明だろう。しかも、日本側が「米軍の力を絶対的に必要としている」からといって、アメリカが自国の国益とは無関係に未来永劫、それに付き合い続けると考えるのは余りにも「空想的」だ。
憲法改正の必要性は、そこにはっきりと浮かび上がる。焦点となるのが、9条2項の「戦力」不保持規定の改正であることは改めて言う迄もない。