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2019年05月22日
上皇陛下がお考えになった本来のご趣旨とも、今回の前例とも違って来る。皇室典範には、「皇嗣」に「重大な事故」がある場合は「皇室会議の議により」「皇位継承の順序を変えることができる」との規定がある(第3条)。よって、今の法律のままでも、秋篠宮殿下がご即位を辞退されるという場面は、制度上あり得る。先の年齢の問題を考えると、むしろその可能性はかなり高いはずだ。そうであれば、愛子内親王殿下への注目はより高まる。
但し「次の」天皇について、具体的な“どなた”がより相応しいかという「属人」主義的な発想で議論すべきではない。そのよう発想では、尊厳であるべき皇位の継承に軽薄なポピュリズムが混入しかねない。厳に戒めるべきだ。そうではなく、皇位の安定的な継承を確保する上で、どのような継承のルールが最も望ましいかを探るべきだ。
もともと、皇位継承資格を「男系の男子」に限定したのは明治の典範が初めてだった。しかも、明治典範の制定過程を見ると、2つの選択肢があった。①側室制度を前提とせず、非嫡出の皇位継承を認めない一方、「男系の男子」という制約を設けない。②側室制度を前提とし、非嫡出にも皇位継承資格を認めて、「男系の男子」という制約を設ける。
これらのうち、①は明治天皇にまだ男子がお生まれになっていない時点でのプランだった。しかし、その後、側室(柳原〔やなぎわら〕愛子〔なるこ〕)から嘉仁(よしひと)親王(後の大正天皇)がお生まれになったので、①が採用される余地は無くなった。
しからば、現在の皇室典範はどうか。
②の「男系の男子」という制約をそのまま受け継いだ。ところが、それを可能にする必須の条件だった側室制度プラス非嫡出の継承資格は、認めていない。つまり、①の前段と②の後段が結び付いた、“ねじれた”形になってしまった。③側室制度を前提とせず、非嫡出の皇位継承を認めないで、しかも「男系の男子」という制約を設ける。
率直に言って、このようなルールでは皇室は行き詰まる以外にない。現在の制度を維持すれば、やがて皇室には皇嗣がいなくなって「自然消滅」する。過去の歴代天皇の約半数は側室の出(非嫡出)であり、平均して天皇の正妻の4代にお1人は男子を生んでいなかった。条件の厳しさは当然、傍系の宮家でも同様。やはり側室に支えられていた(4親王家=伏見宮・有栖川宮・閑院宮・桂宮でも、正妻の子が継いだ15例に対し、側室の子は21例)。
従って、もし皇室の存続を望むならば、明治典範制定時の二者択一に立ち戻るしかない。①と②のどちらを選び直すか。しかし、今さら②が前提とした側室制度を復活し、非嫡出による皇位継承を改めて認めることが“できない”のは、自明だろう。何より皇室ご自身がお認めにならない。国民の圧倒的多数も受け入れない。側室になろうとする適齢の女性が、将来に亘り途切れずに現れ続けるとは想像できない。逆に、側室制度を復活させた皇室に嫁ごうとする女性は、殆どいなくなるはずだ。
こう考えると答えは自ずと決まって来る。
「愛子天皇」の可能性についても、目先の週刊誌ネタや一時のムードなどによって短絡的に判断するのではなく、持続可能な皇位継承のルールはいかにあるべきかという、大局的な見地から丁寧かつ慎重に考えるべきだ。
(本稿は言論サイト「iRONNA」で5月1日に公開された拙稿に手を加えた)
「愛子天皇」待望論への感想(2)
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