
私はこれまで、天皇には3つのお立場があることを指摘して来た。
①皇祖(天照大神)の“系統と精神”の正しい世襲継承者。
②国家の公的秩序の頂点。
③国民結合の中心。
これに対応する憲法での規定は以下の通り。
①→「皇位は世襲」(第2条)
②→「日本国の象徴」(第1条)
③→「日本国民統合の象徴」(同条)
更に、それぞれのお立場に即した役割(お務め)は以下の通り。
①→皇室祭祀。
②→憲法に定める国事行為。
③→国民に寄り添われること(象徴天皇としての公的行為)。
これらのうち、上皇陛下は①はもとより、③を取り分け大切にされ、全身全霊で取り組んで下さった(ご譲位を望まれたのも③を疎かにしない為)。今の天皇陛下がそれを真摯に受け継いでおられるのは、改めて言うまでもない。
《4番目のお務めとは?》
ところが、先頃、ロシアのスプートニク通信社の取材に応じて、日本の天皇の役割を説明していた時に、新しく思い付いたことがあった。
それは、先の3つのお立場と役割は、あくまでも従来における“国内”に対するもので、未来に向けて更に“4番目”の役割があり得るのではないか、ということだ。
まだ、うまく整理し切れていないが、国際社会の中で、天皇が受け継いで来られた伝統的精神を踏まえて、人類規模での「現代の課題」に対して、(お言葉やご行動で)前向きなメッセージを発信されること、とでも取り敢えず言っておこう。
以前、上皇陛下がロンドンのリンネ協会の依頼に応えて、リンネ生誕300年の記念行事で基調講演をされたことがある(「リンネと日本の分類学ー生誕300年を記念して」平成19年5月29日)。
これは、主に科学者としてのお立場でなさった専門分野でのご講演だった。
これに対し、平成10年にインドのニューデリーで開催された国際児童図書評議会(IBBY)の第26回世界大会で、上皇后陛下がビデオテープによる基調講演をされている(9月21日、「橋をかけるー子供時代の読書の思い出」)。
更に、平成14年にスイスのバーゼルで開催された50周年記念大会にお出ましになり、ご挨拶をされた(9月29日、「バーゼルよりー子どもと本を結ぶ人たちへ」。
どちらも『橋をかける』(文春文庫)に所収)。
これらのうち、後者は私がイメージしている“4番目のお務め”により近い。
《世界の水問題にお取り組み》
一方、今の天皇陛下は皇太子時代から、国連「水と衛生に関する諮問委員会」名誉総裁をお務めになるなど、切実な人類的課題と言うべき“世界の水問題”に積極的に取り組んでおられる。
同委員会の委員だった尾田栄章氏は、以下のように述べておられる。
「世界の(水問題に取り組む)人たちは、皇太子殿下(今上陛下)以外の方では務まらない役割を殿下にお務めいただいていると感じているようです。
ご自身が積極的に周りを動かされるのではなく、そこに居られることによって周りが自然に活性化されて動いていく。
日本の長い歴史の流れの中で培われたものなのでしょうか。
他の人ではできないお役なのですね」(『祖国と青年』平成21年5月号)と。
この4番目のお務めは、令和の時代において比重を大きく増すことになるかも知れない。
《国連会合でご講演》
早速、6月25日には、お住まいの赤坂御所からオンラインで開催された国連の「水と災害に関する特別会合」(72ヵ国、33の国際機関が参加)にご臨席になり、国連のアントニオ・グテーレス事務総長らの挨拶の後に、東日本大震災の被災地の現状などに触れた講演を行われた。
「災害や疫病の記憶を後世に伝えつつ、その教訓を生かすべく、次の災害や疫病に備えながら、誰一人取り残されることなく、健康で幸せな毎日を享受できるような社会の構築に向けて、私も皆さんと一緒に努力を続けていきたいと思います」と。
オンライン形式とはいえ、天皇として国連の会合で講演をされたのは、これが歴史上、初めてではないか(皇太子時代には、同会合での講演はニューヨークの国連本部で2回、ビデオテープで1回行っておられるが)。