ドキュメント・11月14・15日
11月14日の夜から15日の未明にかけて、大嘗祭。
より正確には、同祭の中心をなす大嘗宮の儀。
ご一代に一度限りの最も森厳な夜。
ところが、私自身はメディアの対応に追われた。個人的には、いささか残念で悔しい気持ちがある。天皇陛下の厳粛な祭儀の時間を、1人の国民として緊張し、慎んで過ごす事が出来なかった、という意味で。 14日。 東京新聞に私のコメントが掲載された。共同通信に依頼された私の原稿も配信された。又、私のコメントが掲載された「女性セブン」もこの日に発売。念の為にドッサリ資料を持って六本木のテレビ東京へ。午後3時頃に到着。メイクアップと打ち合わせの後、「ゆうがたサテライト」出演。思った以上に私のコーナーの時間が短いので拍子抜け。
その後、直ちに台場のフジテレビ・オフィスタワーへ。翌日の「直撃LIVEグッディ!」の為、カメラの前で取材に応じる。つもりだったが、陛下の大嘗宮へのお出ましのご様子をモニターで拝見しながら、詳しく解説したり、番組スタッフが用意した大嘗宮の写真のフリップを元に、儀式の流れと天皇陛下がご移動になるルート等を説明したり、等々。 取材に応じるといより、スタッフの勉強会の講師を務めている格好。但し、カメラは回りっぱなし。気を抜けない。途中、トイレに案内してくれたアシスタント・ディレクターが「初めて聴く話ばかりです。大嘗祭って凄いんですね」と興奮の面持ち。結局、3時間ほど滞在する結果になった。帰宅途中も担当のディレクターから細々とした追加質問が頻繁にメールで届く。それに一々返信していると、さすがに疲れる。 帰宅したのが午後11時頃。玄関を上がると、直ちにテレビ朝日の「グッド!モーニング」の担当者から電話。翌日の朝の番組で、電話取材への回答の声を放送したい、という依頼。仕方がないので、風呂をさっさと済ませる。風呂場でメイクをまだ落としていなかった事に気付く。向こうが録音している状態で取材に応じる。だが、これも延々と続き、「勉強会」の様相を呈してしまった。一度電話を切った後に、やはり追加の質問があったりして、取材への対応を全て終えたのは午前1時過ぎ。同じような説明を、時間を隔てずに繰り返すのは、修行が足りない私には疲れる。 この頃、陛下は既に主基殿にお出ましになり、内陣の御座にお移りになっているはず。祭祀がご無事に斎行されるよう祈った。 15日。 毎日新聞に、私と対立する論者と2人の見解が並んで掲載された。近現代皇室史研究の第一人者と言うべき小田部雄次氏と名前が並ぶのは光栄だ。但し、字数の制約で私が最も伝えたかった「国民が育てた米」が、ただの「新米」に変更されたのは残念。 産経新聞の記事でも、私の見解が大きく紹介された。他に神道史学の権威者の岡田荘司氏、現在、神道宗教学会の会長を務めておられる武田秀章氏ら、かねて尊敬して来た先生方のコメントも。これ又、光栄至極。記事のタイトルは「天皇と国民 つなぐ祭祀」。まさに私の大嘗祭論の核心を見出しに採用して貰った。 朝早くから又々フジテレビのディレクターより頻繁に質問メール。実に仕事熱心だ。しかし、メールアドレスを教えたのは失敗だったか。テレビ朝日「グッド!モーニング」で私の解説が放送されたようだ。実際に見た人から教えて貰った。 午後2時頃にフジテレビ・メディアタワーへ。控え室に案内される途中、「井上尚弥」という名前が貼られた部屋もあった。あの“モンスター”井上選手の控え室だ。私の控え室では特に打ち合わせもなく、スタッフが用意したボードの画像などに間違いがないか、チェックを頼まれる(案の定、間違いを見つけた)。 驚いた事に台本を渡されたのはスタジオに入る直前。リハーサルが無いのはともかく、台本がこのタイミングとは。誰が出演していて、どんな展開なのか、殆ど呑み込めないまま本番を迎えた。でもMCの安藤優子さんが自然な流れを作ってくれたので、とても話し易かった。番組中、私がチェックしていないテロップに、誤字を発見。天皇陛下がご移動の際にお足元に敷く「御莚道(ごえんどう)」を「御“縁”道」に間違えていた。「莚(むしろ)」にこそ意味があるのに。私が急いで手書きで正しい字を伝えたものの、訂正は出来なかったようだ。 私のコーナーでは、私自身が生出演でスタジオに来ているのに、前日に収録したVTRの一部を流した。この演出は初め少し不思議な気がした。本人がここにいますけど、という感じ。でも、結果的にスタジオの進行具合で言及できなくても、私がしっかり伝えたかったメッセージをうまく切り取って、こういう形で放送してくれたのは有難い。グッジョブ!あっという間に終了。ディレクターから「とても分かりやすい説明でした。何を尋ねられても淀みなく説明して下さるので安心して見ていました」と声を掛けられた。こちらは全然、安心していなかったが、一先ず安堵。 直ちにテレビ東京へ。丁寧に打ち合わせ、リハーサルもやって本番へ。フジテレビでのバタバタぶりに比べて、この手順の大切さを再確認した。メイクアップはフジテレビでやって貰ったのを僅かに補強。
番組終了後、チーフプロデューサーから特別番組の打ち上げの提案を戴いた。以前、5月1日の「剣璽等承継の儀」の特別番組の後、楽しい打ち上げをやって戴いた。「即位礼正殿の儀」と「祝賀御列の儀」の特番の後にもご提案を戴いた。だが私としては、せっかくのお誘いながら、正直に言って大嘗祭まではとてもそんな気持ちになれなかった。その大嘗祭も恙無く終わられた。私も、実際は何もしていないのだが、何だか少し肩の荷が降りた気分。
私が解説を務めた3回の特番では、視聴者がその生涯でめったに出会う機会がない、皇室の大切な行事に当たり、その時、その場での、かけがえの無い“臨場感”、行事そのものの迫力を最優先した。他局の演出とは対極とも言うべき、思い切った賭けでもあったが、幸い視聴者には受け入れられたらしい。
打ち上げでは美味しいお酒が飲めそうだ。