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  • 執筆者の写真高森明勅

皇位の安定継承、不思議な意見

更新日:2021年1月20日

皇位の安定継承、不思議な意見

皇統問題を巡って時折(又はしばしば)奇妙な意見を見掛けることがある。例えば―。


「皇室問題は当事者の考えも重要だ。明治以降の皇室典範では、皇位継承者を男系男子のみに限定し、皇族女子は一般男子と結婚すれば、皇籍を離脱することになっている。このルールを急に変えると、当事者の女性皇族は、大変お困りになる。現行法のもとで生まれ育った当事者には、原則として現在のルールを続けるしかないのではないか」(所功氏、東京新聞5月24日付)


先ず、引用文の少し前に「私案」として「愛子内親王は天皇のお子さまだから直宮家(じきみやけ)とする」と書かれている。敬宮(としのみや、愛子内親王)殿下には、ご結婚後も「直宮家」を設けて皇室に残って戴くことを、提案しているのだ。しかし、敬宮殿下も勿論「現行法のもとで生まれ育った当事者」でいらっしゃる。ならば当然、論理の筋を通せば「原則として現在のルールを続けるしかないのではないか」。


つまり、ご結婚と共に「皇籍を離脱することになっている」はずだ。皇籍を離脱されたら、もはや「直宮家」を設けることはできない。自分の提案を、提案した直後に自ら否定する意図が、理解しにくい。


次に、「皇族女子」の方々が「現在のルール」通りに皆様、ご結婚によって次々と国民の仲間入りをされた場合、天皇陛下の「次」の世代は悠仁親王殿下“たったお1人”だけになる。そのことが、悠仁殿下のご結婚そのものを至難にしてしまう。「皇室の存続に貢献できる道を探る」と言いながら、それとは正反対の主張をしている動機も、よく分からない。


更に、皇室典範を今のまま放置すれば皇室それ自体の存続が困難になるのは明らか。

なので、典範を改正して女性天皇・女性宮家・女系天皇を可能する方向性が、小泉純一郎内閣当時、既に政府レベルの議論の俎上(そじょう)に載っている。私自身も、内閣に設けられた「皇室典範に関する有識者会議」のヒアリングに応じた。同会議の正式な報告書(平成17年)には「女子や女系の皇族への皇位継承資格の拡大の検討」が示されている。


まさか「当事者」の方々がその事実をご存じないとは思えない。ならばこの先、皇室が行き詰まることが明らかな「現在のルール」に、何も手を着けないか。それとも、皇位の安定継承を目指して、有識者会議が示した方向に進むか。「当事者」の皆様にとっては、ご自身の未来が“引き裂かれた”ままになっているのが実情だ。


従って、「ルールを急に変えると、当事者の女性皇族は、大変お困りになる」というのは事実ではあるまい。


むしろ、“引き裂かれた”未来が、政治の無為無策と国民の無関心のせいで、いつまでもそのままになっている現在の状況こそ、「大変お困りになる」原因だろう。にも拘らず、「当事者の考えも重要」との名目で、問題解決を更に先延ばしして、逆に当事者の皆様を“一層”苦しめるような意見が出てくる理由が、不可解だ。


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