• 高森明勅

同調圧力は感染症に危険!


同調圧力は感染症に危険!


神戸大学大学院(微生物感染症学講座感染治療学分野)教授の岩田健太郎氏が興味深い発言をされている。


「緊急事態宣言が解除になったものの、街に出ればほとんどの人がマスクをつけています。

科学的な視点でいえば、一般的なマスク(サージカルマスク)は、感染を起こしていない人がつけても意味は小さい」


「サージカルマスクをつけても、鼻の横、頬の横、顎(あご)の下に隙間(すきま)があり、そこから入り込んできてしまうのです」


「一般の人でN95(密閉性が高い医療用マスク)を購入している人がいますが、その着用の仕方を見ると、(密閉性が高過ぎて)苦しいからでしょう、隙間をつくって着けている。これではサージカルマスクと変わらず、飛沫をガードすることはできません」


「基本的に私たちができる効果的な感染予防は、手指を清潔にすることなのです」


「自覚症状のない人が他人にうつすリスクは極めて低い」


「実は、マスクが必要な状況というのはかなり限られています。感染拡大がひどかった一時のニューヨークのように感染者が多ければ、『みんなが感染者だという前提で考えて、みんなマスクをつけましょう』というのは妥当な判断です。

ただし、それほど感染者が出た場合には、マスクでは感染予防に限界がありますから、結局強い行動制限を行い、ステイホームするしかなくなります。

一方、日本は現時点で東京や北九州で少し感染者が出ている程度。日本国民はほとんど感染していないと考えられます。そんな状況でマスクをつけても、意味がありません。つまり、マスクが必要なほど感染者が出た場合は外出自粛しかなく、逆に感染者がそれほどいない場合には、マスクは意味をなさないのです」


「いちばんの懸念は、学校や保育園が子供たちにマスクの着用をルール化することです。もし、小さな子供に無理やりマスクをさせれば、これからの季節だと、熱中症や脱水症状などのリスクも出てくる。なかには、先生の口元の動きが見えないと内容を聞き取れない子もいるし、閉塞感(へいそくかん)がつらいという子もいるでしょう」


「もし学校でルールにしてしまうと、少数のマスクを着けていない子がいじめに遭う可能性もあります」


「同調圧力は、感染症においてはかなり危険です」


「取材で、よく『今回、罰則規定のない緊急事態宣言に従順に従ったのは、日本人が真面目だからですか』と訊(き)かれます。私は、真面目だからではなく、日本人は同調圧力に弱く、人と違うことに耐えられず、右に倣(なら)っただけな気がしています」


「私はいつも、『感染症で大切なのは、人と違うことをすること』と言っています。夜の街に行くと感染のリスクが…などと言われますが、夜の街に出ること自体がいけないわけではありません。人が密集している繁華街の飲み屋に行けば、それはリスクがありますが、あまり人がいないようなお店で飲む分にはなんの問題もない」


「日本人はルールを決めると、思考停止してそれに徹底的に従ってしまいます。これも問題です。たとえば、政府が緊急事態宣言を解除した途端、電車は混み始め、街には人が増え始めました。緊急事態宣言が解除されても、各々の判断で、リモートワーク、外出自粛を継続するなどの選択肢はあったと思いますが、多くの人が出かけてしまった。政府の方針一つで、これまであれほど徹底して外出自粛・リモートワークをしていた人たちが、ガラリと変わってしまったのです」


「誤解を恐れずに言えば、私は政府の言うことなんて、それほど気にする必要はないと思います。たとえば、厚労省が新型コロナ受診の目安として『37.5℃以上の発熱が4日以上続く』としましたが、実はこの目安、なんの科学的根拠もありません。基準がないとみんな困るだろうから、一応つくった程度の政治的なステートメントなのです」


「私は、別に厚労省を批判しているわけではありません。感染症の専門家でもないのに、上から『基準をつくれ』と言われて突貫(とっかん)でつくらされたのでしょう。厚労省も人手不足で余裕がないにもかかわらず、さまざまな基準をつくらされ、かわいそうな存在なのです」


「国民も、政府に正しいガイドライン、正しい答えを出せ、と過大な要求をしていると思います」


「役人や政治家がすべて正しい答えを導き出せるわけがありません。そんな上からの指示を待たずに、自分の頭で考えて、どうするべきかを決めればいい。私たちが追求すべきはゼロリスクではなく、『より低いリスク』なのです」


ニューヨークで炭疽菌(たんそきん)テロ、北京でSARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群)、アフリカでエボラ出血熱の臨床治療を経験された、「感染治療学」の専門家からの貴重な助言だ。

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