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緊急勅令と議会承諾

執筆者の写真: 高森明勅高森明勅

緊急勅令と議会承諾

緊急勅令と議会承諾


帝国憲法には勿論、「非常事態条項」があった。

8・14・31・70条がそれだ。

例えば、「緊急勅令」について定めた8条には次のようにあった。


「天皇は、公共の安全を保持し、又は其(そ)の災厄を避くる為、緊急の必要に由(よ)り、帝国議会閉会の場合に於(おい)て、法律に代(かわ)るべき勅令を発す。

此(この)の勅令は、次の会期に於て帝国議会に提出すべし。若(もし)議会に於て承諾せられざるときは、政府は将来に向(むけ)て其の効力を失うことを公布すべし」(原文はカタカナ。句読点も追加した)


条文上、主語は「天皇」で、呼称も「勅令」ながら、その実態は現在の“政令”に近いと考えてよいだろう。議会が普通に「勅令」を否決できるルールになっていたのも、見落とせない。


通常は、実質的に議会の議決で成立した法律(憲法の条文では議会の「協賛」)よりも“下位”にあるべき勅令に、帝国議会閉会中に緊急事態が起こった場合に限り、法律と同等の効力を持たせることが、非常手段として“例外的”に認められた。


しかし、緊急勅令は直近の議会で審議され、もし「承諾」されなければ直ちに効力を失うとされていた。実例としては、関東大震災(大正12年)や金融恐慌(昭和2年)の際に発された。


もとより、選挙制度や議会の構成その他の限界はあったが、少なくとも、事後であっても議会の承諾を“不可欠”としている点では、国会の関与を全く排除した今般のコロナ特措法と比べて、制度の枠組みとして遥かに健全なルールになっていたと言えるのではないか。

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