憲法改正を巡って、政府・与党サイドの最強の理論家は 恐らく高村正彦氏だろう。 衆院議員を引退した今も、 自民党副総裁で同党憲法改正推進本部特別顧問。 彼がインタビューに答えている(『中央公論』5月号)。 インタビュアーは若手の憲法学者で九州大学准教授、 6月の九州ゴー宣道場のゲストでもある井上武史氏。 このインタビューから分かるのは、 高村氏の本音が自衛隊「違憲」論らしい事。
「どうしても文言と実体にはカイ離がありますよね。 もし、憲法の文言と自分たちがいいと思っている『自衛隊合憲』 にカイ離があったら、それをなくそうとするのが、『立憲主義』じゃないでしょうか」
「真の立憲主義者なら、我々が自衛隊は合憲なのだから それに合わせて憲法の条文を変えよう、と言っているのに 反対するはずありません」
これらの発言は、以下の考え方がベースになっているはず。
自衛隊は「憲法の文言」に照らして“法的には違憲”。
だけど、わが国を取り巻く国際環境などの現実を見れば、
どうしても“政治的には合憲”にしなくてはならない、と。
普通、「自衛隊は合憲」なら、わざわざ「憲法の条文を変えよう」とは、ならない。
既に「合憲」であれば、改めて「変え」る必要が元々ないからだ。
又、自衛隊の存在に「合わせて憲法の条文を変え」る 必要があるというのは、今のままだと「条文」に抵触する、 つまり端的に言って「違憲」だから。
その本音は、こんな発言にも現れている。
「(9条)2項の文言だけを取り出してみれば、 自衛隊は違憲とならざるをえません。 理論的に言えば2項を削除したほうがいいのでしょうが、 今の国民意識では、2項削除は無理なんですよね」と。 だから政治判断として、「今できる一番良いこと」は 「自衛隊についてきちっと条文に明記することによって、 自衛隊の合憲性についての“神学論争”にはピリオドを打っておく」 との主張になる。
しかし、9条2項の「戦力不保持」規定をそのまま残せば、 残念ながら「神学論争」は終わらない。
しかも高村氏には、自衛隊が現状「半人前」の “非”軍隊(つまり個別的自衛権すら事実上、十全に行使できない制約下にある)
という現実への問題意識が皆無。 これではまともな改憲論議にはならない。