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執筆者の写真高森明勅

繰り上げ「授業時試験」

大学の通年科目の場合、

前期末・後期末にそれぞれ定期試験がある

(又はレポート提出)。

試験は試験期間中か授業時に行う。

どちらにするかは原則、

科目を担当する教員が選ぶ。

私の場合は、いつも授業時試験。

但し授業時試験では普通、

最終授業日に実施するが、

私は必ずその1週間前に設定している。

何故か。

それは定期試験“後”のフォローこそ、

学生らに授業内容を定着させる最高の機会と

考えているからだ。

平素は集中力に欠ける学生も、

一定以上の学習意欲があれば、

試験に(だけ?)は比較的真剣に取り組む。

それを利用しない手はない。

試験前、私は予め学生らに明言しておく。

「私がこれまで教えた内容で、

取り分け重要なポイントだけを出題する。

些末な知識を尋ねたり、

設問の意図を錯覚させるような

引っ掛け問題は絶対に出さない。

だから、これまで学習した内容で何がより大切で、

何がそうでないかを、しっかり選り分けて、

重要なポイントだけを掘り下げて頭の中に

整理しておけば、満点が取れる」と。

出題は毎回、論述式で4問。

それを60分で解かせる。

教科書、教材、ノート全て持ち込み可。

それらを総動員してはじめて解けるような

問題を用意する。

学生らにはこんな事も伝える。

「平常点を加味して、

50点以上の得点で単位を与える。

もし君達の得点が平均で50点に届かない場合は、私自身が悪い。

よほど意地悪な問題を出したか、

これまでの教え方が悪かったか、その両方か。

とにかく直球勝負の問題しか出さない。

そのつもりでみっちり準備してくれ」と。

定期試験は学生らにとって、

その期で最大のイベント。

だから、こちらも大いに盛り上げる。

最終授業日には、試験のフォローを行う。


この場面が、

私にとって実は最も有効な教育の機会。

1問ずつ模範解答を述べ、

採点で注目したポイントを教える。

学生らの解答に同じような間違いが目立てば、

何故それが正解でないかを、懇切に教える。

特定の設問に未記入が多ければ、

それについて、改めて教科書の該当箇所を開きながら、

追加の解説をする。

私が試験前には気付けない、

学生らの理解不足の部分が、

答案用紙を回収する事で分かる。

そこをピンポイントで、補足できる。


これだけで、

その期で教えた大切なポイントの、丁寧なおさらいになる

(逆に言えば、そうなるような試験問題を作る)。

この時、学生らは不思議なくらい真剣に、私の説明を聴く。

試験での得点を探る為に、

頭の中で自分の解答を思い出しながら、

私の説明と必死で照らし合わせているのだ。

私が、敢えて授業最終日から

1週間“繰り上げて”試験を行う理由は、ここにある。

最高の教育チャンスを、

みすみす無駄にしたくないのだ。


解説が終わったら、

試験の採点結果を各自に伝え、

時には短くアドバイスする。

最高得点者は名前を公表し、率直に褒める。


立派な解答を皆の前で読み上げる事もある。

ちゃんと授業を受けていれば、

普通にこんな解答が書けるはずだ、という見本として。

50点に届かなかった者は、

そのまま教室に残らせて、

課題レポートを追加で提出するかどうか、自由に選ばせる。

レポートを提出すれは、それを評価に加算する

(それで単位を取得できるかどうかは、勿論、内容次第)。

そうした配慮を払う為にも、

試験期間中や授業最終日に試験を行う訳には行かないのだ。

無論、試験のやり方は各先生や科目ごとに、

事情も工夫も様々だろう。

ここでは、私なりのやり方を紹介してみた。

―なお全く別件ながら。

定期試験繋がりで私の学生時代の話。

第2外国語でドイツ語を選択した時に、

豪傑の先生がおられた。

試験の時に教室に入って来て、こう説明された。

「諸君、学籍番号、学年、学科、クラス、

出席番号、名前を忘れずに記入するように。

それぞれ100点満点中10点ずつ配点している。

だから全て記入していれば単位は与える」と。

試験監督の担当者が

あっけに取られていたのを思い出す。




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